生きる音楽の、今
叫びは、一番シンプルな音楽だ。まだ自分が生まれてくる可能性すら見えにくいような昔の昔の原始時代、半分くらい猿だったヒトは、おそらくそれを高揚の表現として用いただろう。たくさんの仲間と、狩りの成功であったり何かの節目に咆哮を繰り広げたに違いない。そして私たちがレッドマーキーで楽しんだのも、叫びという音だ。
24時をまわり、約30分ほど押したスケジュール。早足に楽器がステージに持ち込まれる。打楽器たちが運ばれていくその中央に、長く、どっしりとした存在感でもってディジュリドゥが真正面を向いて置かれている。サウンドチェックでそれが吹かれるたびに歓声が上がり、高い期待をそこかしこに感じる。
“Jungle Chant” の神秘的な詠唱が暗闇のレッドマーキーを包む。青い照明が一筋にオーディエンスを照らして回る。口火を切ったドラムのリズム、高温で叩かれるジャンベ、走るリズム、駆けるビート。リズムを身体に浸透させていくように踊り、マイク関係なしに叫ぶGOMA。そしてディジュリドゥの前に立ち、音が震え響く。瞬間、熱した油に水をかけたようにオーディエンスが爆発した。
交通事故で脳の高次機能障害を負っていたGOMAのステージ。昨年のフジロックでのカムバック後、2度目となるレッドマーキーの登場を、待ち構えたオーディエンスはリズムに身を委ね、興奮を隠せず声に出すことでウェルカムの姿勢を取った。メロディを最小限にし、パーカッシブな叩きの合奏に集中されたそのサウンドを体いっぱいに浴び、ダンスで応える。もはや復活というレッテルすら蛇足に感じるほど完璧なリズムが弾けていく。中央のGOMAはその口をディジュリドゥに、両の手をリズムに泳がせるように繰り回した。
「音楽って最高だよね。このために3、4年這いつくばって頑張ってきました!さあ、みんなで叫ぼう!」
リズムの、音楽の中で旋回していたGOMAが急にそんなことを言った。そして、せーので叫ぶ。本人だけでなく、メインのステージが終了して押し寄せた満員のレッドマーキーのみんなも叫んだ。叫んでいた自分の体も、空気も大きく震えていた。そこには余計な音なくひとつだけのシンプルな音楽が、大音量で在った。
その後も”AFRO BILLY””RIODIDGENEIRO”とグルーヴは加速していく。そこへ低音を震わせたり、動物の鳴き声のようなディジュリドゥの細かな波形がとびかかってきた。踊ることに特化した音楽と祭りの終わりが近づくその刹那の時間が、焦りにも似た感覚で迫ってきた。
カンペを手に持ちながらMCをするGOMAが昨年を振り返って言った。「その時にならないと分からないような状態だった昨年、賭けみたいな状況に付き合ってくれたフジロックに感謝します。最高やね!」、踊りまくったからの汗を拭いながら、みんな笑顔だ。復帰後の彼のステージにはいつも多幸感が満ちている。このレッドマーキーにはシリアスさも、眉間にシワを寄せる必要もまるで必要ない、ただただ音楽に身を任せて祝祭を彩る僕らとステージ上の彼らだけ、そしてそれを繋ぐ音楽だけがあった。パーティーのラストスパートは、最高の形で弾けていった。
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