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7/26 SATGREEN STAGE

ARCADE FIRE

リフレクターに映し出されたもの

アーケイド・ファイアが最後に来日を果たしたのは2008年のこと。それから6年の間に、3rdアルバム『The Suburbs』はグラミー賞で最優秀アルバム賞を受賞。昨年にはLCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーをプロデューサーに迎えた『Reflektor』をリリースし、名実ともに世界最高のライヴバンドと謳われるようになったアーケイド・ファイア。そんな彼らのライヴを観たい。これは僕たちフジロッカーはもちろん、日本の洋楽ファンの長年の夢といっても過言ではないだろう。そんな願いが実現する日がついにやってきたのだ。

デーモン・アルバーンのキャリアを総括するような素晴らしいライヴの後、転換中のSEでは最新アルバム制作時に影響を受けたであろう、フェラ・クティの“Zombie”やトゥーツ・アンド・ザ・メイタルズの“Pressure Drop”といったアフロビートやレゲエの有名な曲が流れている。ステージに目を向けると、シンセサイザーやドラム、コンゴ、ピアノ、スティール・パン…など数えきれないほどの楽器が所狭しと並んでいる。また、ステージ上部には六角形の反射板(リフレクター)が21枚も取り付けられている。一体このリフレクターは何を映し出すのだろうか。

雲ひとつない夜空が広がる、午後9時30分。定刻通りにステージが暗転し、PAブース前方の特設ステージに全身を反射板で包んだミラーマンが登場する。ミラーマンの「みなさなん、こんばんは。私はミラーマンです!今日は初めてのフジロック!多いに楽しんでください!アーケイド・ファイア!」という呼びかけを合図に、小刻みなコンガのリズムが流れ出す。一曲目は最新アルバムのタイトルトラックにもなっている“Reflector”。奇声を上げる人、一心不乱に踊る人、涙を目に浮かべる人。皆それぞれに曲の聴き方は違うけれど、確かなことはただひとつ。 アーケイド・ファイアをこの目で観られる日を待ち望んでいた人たちがグリーン・ステージにたくさん詰めかけているということだ。

ステージ上のメンバーは総勢12名。オリジナル・メンバーであるウィン・バトラー、レジーヌ・シャサーニュ、ウィル・バトラー、リチャード・パリー、ティム・キングズベリー、サラ・ニューフェルド、ジェレミー・ギャラ。準メンバーとも言えるオーウェン・パレットにバリトン・サックス奏者の2名とハイチのパーカッション奏者2名という構成だ。また、全員が盛装をすることで、視覚的にも唯一無二の世界観を作り上げている。二曲目の“Flashbulb Eyes”ではウィン・バトラーが撮影エリアにいるカメラマンのカメラを奪い取り、オーディエンスや自分の写真を撮るパフォーマンスを見せて会場を沸かせた。

各メンバーは曲ごとに役割を次から次へと変えていく。例えば、レジーヌは“Power Out”でスティール・パンや鉄琴を演奏したかと思えば、“Rebellion (Lies)”ではピアノを弾きながらコーラスを担当し、 “Joan Of Arc”ではマントと仮面を装着して、ステージ下手におかれた高台で踊り出す。他のメンバーも同様にひとつの楽器を演奏し続けることはない。流動的な演奏形態ではあるが、音の強度は全く変わらない。むしろ、曲数が増えていくにつれて音がよりパワフルに、よりエネルギッシュになっていく。

ウィンからの「アリガト、ゴザイマス」というメッセージのあとに披露されたのは、彼らを一気にスターダムに押し上げることになった3rdアルバム『The Suburbs』からの楽曲。“The Suburbs”ではスクリーンに片田舎に住む少年たちが自転車に乗っているシーンや戯れ合って遊ぶシーン(リンチのような場面も?)が映し出され、10代の誰もが抱える心の葛藤を上手に表現していた。

ライヴも中盤に入り、メンバー全員が声を上げて歌う“Ready To Start”や“Tunnels”、“No Cars Go”は当然のようにオーディエンスも合唱に加わる。音程とか、声の綺麗さとかそういったことをアーケイド・ファイアの曲は求めてはいない。音痴でも、声量がなくても、それで全然かまわない。ただ、自分の声をしっかりと出すこと、その一点だけを求めていると思う。オーディエンスに歌ってもらうために、彼らは演奏をするのだ。

“Haiti”ではウィンがオーディエンスからレジーヌの母国であるハイチの国旗を受け取りにいくためにステージから降りたり、アーケイド・ファイアの新たなアンセムである“Afterlife”ではミラーマンを再び登場させ、グリーン・ステージを鏡壁の世界に変貌させたりと、常にオーディエンスを驚かせるギミックを随所に仕込んでいた。なかでも、“It’s Never Over (Hey Orpheus)”はレジーヌがサブステージ(特設ステージ)に移動し、ウィンと向かい合わせになりながら歌うだけかと思いきや、レジーヌの背後で死神が曲中劇を繰り広げるというエンタテイメント性まで持っていた。

本編はレジーヌの透明感溢れる声で歌うダンスナンバー“Sprawl II (Mountains Beyond Mountains)”で一旦幕を閉じる。だが、すぐにYMOの“Rydeen”が流れ出す。ステージ袖から“Sprawl II (Mountains Beyond Mountains)”のミュージックビデオに出演している巨大な張り子のお面を被ったボブルヘッドがぞくぞくと登場し、アンコール一曲目には“Normal Person”が披露された。

ラスト二曲は間違いなく今年のフジロックのハイライト。“Here Come The Night Time”の終盤にはグリーン・ステージが見えなくなるほどの大量の紙吹雪が降り注ぎ(紙吹雪を掃除をすることが手間になるにもかかわらず、世界一クリーンなフェスを標榜するフジロックがあれだけの紙吹雪をグリーンに降らせたとは…)、トドメはみんながお待ちかねの“Wake Up”の大合唱。

バンドがオーディエンスに一方的に曲を聴かせるわけではなく、曲を一緒につくり上げる。もっと言えば、オーディエンスが主役になる曲をつくる。そういうことができるからこそ、アーケイド・ファイアは世界で最高のライヴバンドなんだと思う。

リフレクター(反射板)には、満面の笑みのオーディエンスが映し出されていたのだ。

—Set List(原文ママ)—
Reflector
Flashbulb Eyes
Power Out
Rebellion
Joan Of Arc
The Suburbs
Ready To Start
Tunnels
We Exist
No Cars Go
Haiti
Afterlife
It’s Never Over
Sprawl ⅱ
(Bobbleheads – Rydeen – YMO)
Normal Person

Here Come The Night Time

Wake Up

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