上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト feat.アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス
最強トリオがグリーンに降臨
上原ひろみ、2012年、伝説のオレンジコート初日トリ以来の苗場降臨である。しかも満を持しての初グリーンステージである。プログレ要素も多いジャズという音楽性でグリーンステージに人を呼べる上原ひろみの魅力とは何か。しかも最も暑い時間帯だ。それでも続々と人が集まってくるし、1時間のセット中、前方から去っていく人はほぼ皆無だった。
ステージに目をやるとサイモン・フィリップス(Dr)のやたらタムが多く、かつ2バスのドラムセットに目が行ってしまう。それ以外は広いステージにグランドピアノとアンソニー・ジャクソン(Bs)が座る椅子。そう。もうチームを組んで長いこの3人は上原(36歳)、サイモン(58歳)、アンソニー(63歳)という幅広い年齢構成で、上原とアンソニーは親子ぐらい歳の差がある。しかし年齢の壁がないのが、ジャズやゴルフの世界だ。キャリアごとの巧さや駆け引きや、それでも残るピュアネスや情熱という部分で、ついゴルフを例えに挙げたくなっただけなのだが…。
スクリーンに映し出される映像でまず驚いたのは上原の肘から下の筋肉である。こんな筋肉の付き方をしている女性ピアニストをあまり見たことがない。今更、彼女のツアーの日々に思いを馳せてしまった。冒頭からかなりハードな抜き差しが展開されるナンバーが披露され、上原のパーカッシブなタッチや速弾きと、超絶技巧ではこの人ぐらいしかタメを張れないのでは?と思わせるサイモンの手数・足数の多いドラミングが上原のピアノと刺し違える勢いだ。加えて、アンソニーのベースはリズムキープではなく、むしろメロディ楽器としての役割を果たしている。
ロックバンドとは全然、曲に対する楽器の音の役割が違うのに何故、上原ひろみのトリオはこれだけフジロックに愛されるバンドなのだろう。以前、彼女はテクノやエレクトロ・ミュージックも好きだと語っていたし、恐らくアブストラクトな音楽という意味では、トラックメーカーに近い脳みそで生演奏にアウトプットする手法も持っているのだろう。スリリング過ぎて息つく間もない演奏は、瓦解してないバトルズ(バトルズにはすみません)、もしくはスキルを極めたマスロック勢に通じるものもあるし、ヒートアップする演奏のピークで拍手が起こったり、メインテーマに戻ると拍手と歓声が上がる様子はジャムバンドのそれにも似ている。ま、そもそもジャズの方が歴史は先じゃんと言われたら身も蓋もないのだが、そんな中でも上原の演奏は限りなくロックに近い。
MCではグリーンに集まった観客に感動を抑えられない様子。「すごい景色です。圧巻の景色です。昨日はご飯の列に並んでたら何度も『ここが最後尾ですか?』って、全然気付かれなかったんで、今日、お客さんが来てくれないんじゃないかと」心配したらしいが、今、その圧巻の景色を前に「今、ここで皆さんとしか作れない音楽を作ります」と、さらに熱の籠もった演奏で、最も多彩で音楽的志向のバラバラな観客を巻き込んでいったのだった。
さすが、今月だけでもスペイン各地にいたかと思えば宮城、そして再びマルセイユに飛び、対面した観客と真剣勝負しているトリオである。音楽が人生と言える人たちの演奏がここにあった。