PHILIP SAYCE
ギター・レジェンズの魂を引き継ぐ男
フジロック二日目、時間はあっという間に過ぎ、早くも19時前。照りつけていた太陽も静まり、心地よい風が吹いている。これから、ここヘブンに、ジェフ・ヒーリーやメリッサ・エスリッジに認められた凄腕ギタリストのフィリップ・セイスが登場するのだ。
開演時刻ちょうどにフィリップを筆頭に、ベースのジョエル、ドラムのジミーのスリーピースが颯爽とステージに登場した。年期が入っていることがうかがえる塗装が剥がれ落ちたフィリップのストラトキャスターに目が行く。愛器ストラトをかき鳴らし、怒涛のジャムセッションに突入だ!フジロッカーズの英語版サイトにアップされたインタビューで「110%のショウを届けるよ!」と言ってたのは伊達じゃなかった。ジミヘンよろしく歯で弦をかき鳴らしてフロアを盛り上げるのだ。フィリップはパフォーマンスの高さもハンパない!
そのままヘヴィなリフを奏でて、ザ・ソニックスのカバー曲”I’m Going Home”を投下する。バンドが一体となって醸成するグルーヴはただただ「激しい!」の一言だ。フィリップは恍惚とした表情で弦をかき鳴らす。
今夜のステージを実現してくれたフジロックのスタッフに対し感謝の意を示し、そして、ここに居合わせたオーディエンスに最大限のお礼を述べる。続いて、”Powerful Thing”でファンク天国に我々を誘い、美しい夕焼けが映えるなか、テン・イヤーズ・アフターの”I’d Love To Change The Wourld”のフレーズをリヴァーブをかけながら出力するのだ。間奏のチョーキングしまくりのギターソロに大歓声が巻き起こる。
フロアが楽しんでいる様子が伝わったのだろう。「今夜は今年一番のライヴだ!」と嬉しそうなフィリップ。先日日本でリリースされたばかりのアルバム、『Influence』の紹介をはさみ、”Blues Ain’t Nothin’ But A Good Woman On Your Mind”を披露。その曲名を読み上げて「この意味分かるよな?」と不敵に微笑み、ムーディー極まりないフレーズでフロアを酔わせる。
フィリップは汗だくだ。1曲1曲に持てる全てを出し切っているからだろう。水分補給のため、水で「Cheers!(乾杯!)」と叫ぶのだ。フロアから飛んで来た「そろそろやるかい?」に「OK!」と応えるフィリップ。笑いがフロアに起こる。「何て言ったのかわからなかったけど、エナジーは伝わってきたよ!ありがとう!」と真摯に返答する。そう、今ヘブンにめちゃめちゃ良いヴァイヴスが漂っているのだ。
日がとっぷりと暮れ、ミラーボールに光が点灯すると、ジミヘン直球のブルーズロック”Out of My Mind”を投下した。最上のスキルでここまで真正なハードロックを奏でてくれるアーティストは昨今なかなかいない。そして、すぐさまジェフ・ヒーリーに捧げると”As The Years Go Passing By”の深煎りブルーズを届けるのだ。
フィリップはラストで「考えるんじゃなくて、自分が感じること、それを大切にしてほしい!」とあらん限りにギターを弾き倒して、ステージを後にした。あまりに凄過ぎて、オーディエンスはしばらくその場に呆然と立ち尽くすしかなかったのだ。