井乃頭蓄音団
面白くて、かっこよくて、泣ける
フジロック2日目の夜は、上着が欲しくなる肌寒い夜となった。2008年に井の頭公園で結成されたというロックバンド、井乃頭蓄音団のステージを見るためにジプシー・アヴァロンに向かう。ところが、開始10分前に着いたはずなのに、既に井乃頭蓄音団が演奏を始めていた。どうやらボーナストラックと称して、早めにライヴがスタートしていたようだ。演奏していたのは、2014年に発売された2ndアルバム『おかえりロンサムジョージ』から“少年”と“昔は良かった”。懐かしさを感じるようなフォークロックだ。白いシャツに赤いジャケットを着たボーカルの松尾よういちろうは、ボーナストラックを歌い終えると一旦ステージを降りたが、残ったメンバーたちはそのまま楽器を演奏し続ける。
21時になると、再び松尾が登場して“親が泣く”を歌い始めた。夢を追い続ける人たちのリアルがユーモラスな歌詞に込められていて、思わず心を掴まれる。続けて“さよならと言ったわけ”を演奏し、その後の“デスコ”では観客を屈ませたり立たせたりして盛り上げた。松尾が時折前に出てきて調子よく投げキッスをしたり、唯一無二なテンポのトークで観客を笑わせたりしたかと思えば、ギターのジョニーやヒロヒサカトーが代わる代わる観客の目前へ出てきてかっこいいソロやギターバトルを披露し、高い演奏スキルを魅せる。他では見たことのない、井乃頭蓄音団の不思議な世界観にぐいぐい引き込まれてしまった人たちが、アヴァロンの周りにたくさん集まってきた。
とにかく楽しいライヴだ。演奏しているメンバーたちが楽しそうだし、なんと言っても歌う松尾の人懐こい笑顔とトークにつられてしまう。昔からのファンも初めて彼らを見た人も、ニヤニヤしながらこのユニークなロックバンドのステージに見入っている。 悲喜劇的なユーモアで物事の真を突いてくる歌詞もまた魅力的だ。独自の歌詞をつけた“カントリーロード”や“アンゴルモア”などで観客を盛り上げ、最後はじんわりと“東京五輪”を聴かせてステージが終了した。アンコールが沸き起こったものの、ステージに戻ってきたバンドはお辞儀をしたのみで再び下がってしまった。時間の関係でアンコールの演奏ができなかったのだろうか。12月にワンマンライブがあるらしいので、気になった人は是非チェックしてみてほしい。