羊毛とおはなの演奏が終わって間もなく、Predawn本人がリハーサルのために姿を現した。自らギターを弾き、声を出すのだが、次第に本番さながらの様子でサウンド・チェックを進めていく。彼女の歌を聴くために留まっていた人にとっては、嬉しいサプライズからライブがはじまっていった。
開演時間になり改めてPredawnが登場すると、少し控えめな拍手が彼女を迎え入れた。木道亭に漂う静けさには、Predawnの歌を真剣に聴きたいというオーディエンスの想いが込められているようだ。当の本人はというと、待ち受ける人の数に驚きながらも、特に緊張した様子もなく歌いはじめる。歌われるのが英語詞だからか、彼女が発する言葉は脳裏に残ることなく体内をすり抜けていく。それはまるで手のひらからすべり落ちる砂のようで、そのサラサラと渇いた感じが心地良いのだ。
木道亭の特徴のひとつに、両サイドを固めるホワイト・ステージとフィールド・オブ・ヘブンからの轟音が響いてくるという悪条件がある。Predawnのようにギター1本で弾き語るタイプだと、その騒音は特に気になってしまうのだが、この時間に限っては不思議とそんな不快感を感じなかった。もちろん音が鳴っていなかったわけではない。歌に集中することで周囲の音が気にならなくなるということだと思うのだが、それ以上に彼女の歌声には周囲の静けさを強めるような力があるような気がしてならない。そんな不思議な魅力があるからこそ、数あるステージの中でも彼女を聴きに行こうと思えるのだ。
写真:近澤幸司
文:船橋岳大