今日音楽業界では有名バンドのメンバーが別プロジェクトを組むのがちょっとした流行だが、バンド名のごとく“原子力級”なバンドがフジロック最終日のグリーン・ステージにお出ましだ。レディオヘッドのボーカルのトム・ヨークとレッド・ホット・チリ・ペッパーズのベースのフリーという、現代オルタナティブ・ロック界のアイコンを二人据えているだけでもお腹いっぱいなのに、それを陰で支えるのがレディオヘッドやトラヴィスなどのプロデュースでお馴染みの、音楽業界のトップ・プロデューサー、ナイジェル・ゴドリッチときたもんだ。さらにはR.E.M.でドラムスを担当していたジョーイ・ワロンカーとブラジル出身のマルチ・プレイヤーであるマウロ・レフォスコが演奏に加わるとあれば、ライブ観る前から悪くなるはずがない。そう思っていた。
だが、私は真のアーティストの底力をなめていたかもしれない。これは以前、ボブ・ディランの来日公演でも感じたことなのだが、一流のアーティストは観客が期待の上の上をいくようなことをやってのけてみせる。彼らが造りだす音は、トムの楽曲にフリーのベースによってファンクネスが加わって、ナイジェルによって全体のバランスが整えられた音・・・・・・なんて単純な加算式で導き出せるようなものではなかった。
無感情で無機質で機械的なエレクトニカ・アルバム『The Eraser』の楽曲は、トライバルなリズムが加わることによって熱を帯び、感情を持ち、野獣のような躍動感で耳に迫ってきた。それは今年のグラストンバリー・フェスティバルででトムとジョニーによって奏でられたシンプルでアコースティックなアレンジとも全く異なるもので、一音先の展開さえ読めなかった。音のプロ集団のプライドがぶつかり合うような鉄壁の演奏に支えられ、トムはレディオヘッドのときよりもいささかリラックスした様子。お馴染みのトム・ダンスもいつもより激しい。フリーもレッチリのときほどとまででは言わないものの、あのお馴染みの動きでスラップベースを鳴らしてみせる。トムとフリーが対峙してギター×ベースバトルを繰り広げる姿は「かっこいい」の一言で、観客からも大きな歓声が沸き上がった。
一通り『The Eraser』からの楽曲を演奏した後、中盤に挟まれたのはトムのソロコーナー。ギター一本で奏でられた”I might be wrong”、ピアノ弾き語りによる”video tape”と、レディオヘッドの楽曲が、シンプルなアレンジで演奏された。これまでの攻撃的なステージの様子とは一変、夜の苗場がトムの暖かな声に静かに包み込まれていった。
バンドのメンバーが再度ステージにあがってからも、特にレディオヘッドのキラーチューンを演奏するわけでもなく、淡々とステージは進んだ。途中のMCで「次の曲はThe BeatlesのPaperback Writerだよ」なんてギャグを言いつつ子供のように笑っていたトムに、最後の最後までかわされた気分だ。グリーンステージの後方までみっちりと集まった観客も、ライブ後にステージを去る熱狂的な歓声で送るというよりは、彼らの演奏に圧倒されて拍手をするのがやっと、というように見えた。こんなにも「置いてけぼり」感を味わったライブはかつてなかったように思う。ただそれと同時に、こんなにも鳴らされる一音一音に身震いを覚えたライブもなかった。
タンクトップから胸毛が覗くトムも、ピアニカを吹くフリーも、コーラスをするナイジェルも、この先そう観ることはできないだろう。そして今晩聴いたあの音も、二度と同じように鳴らされることはないだろう。これぞ一期一会のライブの醍醐味。2010年夏、この一瞬の夢のようなステージを目撃できたことがだただ嬉しい。
[setlist]
1. The Eraser
2. Analyse
3. The Clock
4. Black Swan
5. Skip Divided
6. Atoms For Peace
7. And It Rained All Night
8. Harrowdown Hill
9. Cymbal Rush
-Thom Yorke solo part-
10. I Might Be Wrong
11. Give Up The Ghost
12. Videotape
13. Paperbag Writer
14. Judge, Jury and Executioner
15. Hollow Earth
16. Feeling Pulled Apart By Horses
写真:前田博史
文:本堂清佳