日々への愛しさを乗せた歌
どんな形であれ、すべての楽曲に愛が満ちている――。そんな音楽を奏でるのがハナレグミだ。音楽はもちろんのこと、この日の彼は他人の心までも解きほぐしてくれるこの上なく豊かな表情だった。
「晴れた、晴れた〜」という一声から登場した彼。こんなに晴れが似合うアーティストも、そういないのではないだろうか。あの満面の笑みで語りかけられると、今までの天候のことも忘れ、すっかりと気持ちがほころんでしまう。たった一言だとしても、人や時間の流れをもキレイに見せてくれるから不思議だ。演奏は、聴いているとともに日常の絵が浮かんでくるような”音タイム”や”あいのわ”へと流れていく。
途中のMCで「ライヴ・ハウスで演奏しているような近さがあるね。最高だ」と彼が言っていたように、日常の生活で感じる気持ちを綴っているからか、楽曲がごく身近にあるような気がしてならない。聴き手のみならず、アーティスト自身も同じように思っていたことが率直に嬉しい。
そして、”家族の風景”や”光と影”など、しっとりとしたナンバーも。ステージ上で軽快にステップを踏み、オーディエンスにパワーぶつける姿もカッコいいが、ふと静けさを生み出す時のギャップがたまらないのだ。また、歌詞には1曲ごとに物語がキチンと描かれており、音楽の大きさを感じるとともに、色のない世界だとしてもそっと彩られるイメージを掻き立てられてしまった。
この日は最大で7名という大所帯でのライヴ。中でもギターとして参加していた、おおはた雄一との音の合わせ方は絶妙だった。おおはた雄一自身もシンガーで歌の深さを理解しているからこそ、ここまでハナレグミとの相性もよいのだろう。また。9月7日には、2年ぶりとなるアルバム『オアシス』をリリースする彼。原田郁子や児玉奈央、Black Bottom Brass Bandといった数多くのミュージシャンが参加しているとのこと。こちらも、ミュージシャン同士の空気感や歌力をいち早く体感したいものだ。
文:松坂愛
写真:熊沢泉 (Supported by Nikon)