ロン接待大作戦
フジロックにフェイセスが来る。去年の土曜日もそうだけど、フジロック2日目のグリーン・ステージのヘッドライナーはロック・レジェンドの枠なんだろうか。しかし、今の若いロック・ファンにはなじみが薄いのか、同時間帯のレッド・マーキーやホワイト・ステージの盛況ぶりと比べ、グリーンには不安になるくらい人がいなかった。
いいですか、今回のフジロッカーのミッションは、来年あたりにカリブ海に浮かぶ島にあるミック・ジャガーの別荘でおこなわれるローリング・ストーンズのミーティングがあったときに、キースが「ロン、そういえば、お前日本のフェスに出たんだってな」といえば、「そうだよ、フジロックっていうんだ。スキー・リゾートでおこなわれるフェスなんだけど、自然に囲まれているし、お客さんもとってもいいんだ」と答えさせるために、ロンを気持ちよくさせる、そういう接待をおこなうことでしょう。そんなステージ前には、年齢層高めの人たち。たまに若い女の子がいると、逆に「何が目的なんだ?」という気にさせる。でも、そういう子たちもどうやらロンを観ることが目的らしい。さあ、重要なミッションが始まった。
まずは”Miss Judy’s Farm”から始まる。続いて”Had Me a Real Good Time”。2曲目から長身で細身でイケメンの青年がサイド・ギターで演奏に加わる。一説によるとロンの息子らしい。さて、ヴォーカル……は、ミック・ハックネル。おれは元々シンプリー・レッドが大好きだし、ミック・ハックネルは才能あるヴォーカリストであることは間違いないのだけど、やっぱり、フェイセスのヴォーカルじゃあないよなぁという気になる。しかも、本人はモニターに映し出される歌詞を見ながら歌うのだ。でも、ミックの表情をみると気持ちよさそうだし、バックの演奏陣の息もぴったり迫力あったし、楽しそうに演奏している。ベースのグレン・マトロックなんて、ジョン・ライドンみたいな性格の悪い人とやるより居心地がよさそうだった。
”Ooh la La”では、大合唱を求めるので、不安になったけど、モッシュピットに詰め掛けている人たちは見事に歌って応える。もしかしたら日本中のフェイセス・ファンがモッシュピットに集結しているんじゃないかと思うくらい。ポール・マッカートニーの”Maybe I’m Amazed”は、昔からフェイセスが演奏している、なじみの曲だけど、思えば、ビートルズのメンバーだった人の曲を、ストーンズのメンバーがギターを弾き、ピストルズのメンバーがベースを弾くというロックの対立の歴史を乗り越えた光景が繰り広げられて胸が熱くなる。さらに映画『24アワーズ・パーティ・ピープル』の冒頭で、マンチェスターでおこなわれたセックス・ピストルズのライヴには40数人しか観客がいなかったけど、その中にミック・ハックネルがいたことが描かれている。長い年月を経て、こうしてミック・ハックネルとピストルズのメンバーが一緒のステージに立てるなんて、こちらも胸熱なのだ。そういや、このステージには、ザ・フーの元メンバーもいるし、スモール・フェスセスもいる。そう考えると、とてつもないスーパー・バンドなのだ。
途中、ロンだけがステージに残ってスライド・ギターのソロを長々と聴かせてくれる。なぜか、ダヴィッドの『サン・ベルナール峠を越えるナポレオン』がプリントされたTシャツを着たロンも楽しんでいる様子。本編最後は、”Losing You”。ケニー・ジョーンズの長いドラムソロもあった。
アンコールは、スモール・フェイセス時代の曲を2曲。”Tin Soldier”と”All Or Nothing”。観客にコーラスを求めるも、ちゃんと応えたのが偉い。2度目のアンコールは、みんなが待っていたロックン・ロール”Stay With Me”。これも大合唱が起こった。いやぁ、これはロンも満足して帰れたんではないだろうか。フジロックのお客さんも、最初はどうなることやら、と不安だったけどよく頑張ったと思う。
写真:熊沢泉 (Supported by Nikon)
文:イケダノブユキ