せめぎあう生モノのライヴ
コンゴトロニクスvsロッカーズは、アーティスト発表第一弾でアナウンスされたこともあって、その期待度は高かった。
元々『コンゴトロニクス』とは、ワールド・ミュージックを掘っている人には知られた存在だった、コンゴ出身の「コノノNo.1」というアーティストのアルバム名だった。電化された親指ピアノ(リケンベ)が爆音を発し、よくわからない創作楽器がけたたましく鳴り響くといった特異な一面から、コノノNo.1の作品は、クラブシーンにも浸食していった。
それがいつしか、レーベル内で『コンゴトロニクス』というシリーズとなっていき、5つの部族が集まって結成された「カサイオールスターズ」の作品もリリースされた。そして、今になって、コノノとカサイがひとつとなって「コンゴトロニクス」という名前そのものが、アーティスト名として冠されたのだ。
新しい者好きは、世界中にいるもので、ディアフーフ(サンフランシスコ)、フアナ・モリーナ(アルゼンチン)、スケルトンズ(ニューヨーク)、ワイルドバーズ&ピースドラムス(スウェーデン)と、毛色も、志向も違うアーティストが集まって、「ロッカーズ」を結成。こうして、「コンゴトロニクスvsロッカーズ」という、これから先に見られるかどうかわからない、多国籍バンドが生まれたのだ。
正直、「ワールド・ミュージック」というくくりでは、オーディエンスが集まるのかどうか読めなかったが、蓋を開けて見れば、キャパ一杯。夜も深い奥地オレンジ・コートに、大勢の人が集まっていた。どこでどう知ったのだろう? フジロッカーは予習して、新たな出会いを探るそうだが、第一弾というまだまだアーティストの数が少ないうちに調べて、アタリをつけていたのだろうか…とにもかくにも、この日、「コンゴトロニクスvsロッカーズ」を見ることができた者は、良い意味で「トラウマ」を植え付けられたと言える。
総勢何名かは解らない…少なく見積もっても20人は超えていたと思う。一般に「ステージ袖」と呼ばれる場所にもメンバーがいた。密度が濃すぎて、全ての動きが追えない。まるで、ステージ全体から音が流れ出るというか、大きな動きが同時多発しているというか、何処を見れば良いのか、眼のやり場に困るような状況だった。
ディアフーフの楽曲”スーパー・デューパー・レスキュー・ヘッズ!”では、アフリカのリズムがささやかながら添えられ、サトミ・マツザキの透き通った声と、粒が細やかなギターの音色を引き立てていき、カサイのコーラス隊が土気色に染め上げる。
“Ambulayi Tshaniye”(読めず)では、リケンベは水滴がこぼれ落ちるような音を発し、股ぐらに挟んだ巨大な三角形の打楽器(?)はトタンを叩くような響きを生む。そこかしこから溢れ出るアフリカのリズムの上で浮かぶのはフアナ・モリーナの声色で、下から突き上げるのはアフリカのコーラス隊。だんだんと渾然一体となる様子は、「コンゴトロニクス」が主導権を握る展開だ。リズムは反復されることでその陰影をくっきりと浮かび上がらせ、コーラス隊からは呪文のような言葉とが発せられ、ギターからは野生動物のような鳴き声が生まれてきたのだった。
思えば、それぞれが持ち寄った楽曲をベースに、ほうぼうで好き勝手にアレンジを加えていく、生モノのようなライヴだった。セッションというには、どうにも規模が大きすぎた。彼らにルールがあったとするならば、それはひとつ。コンゴトロニクスとロッカーズ、その間にわざわざ【vs】と付けたのは、曲ごとに「攻守が切り替わる展開」を暗示していたのだ。
文・西野太生輝
写真:Julen Esteban-Pretel