木道亭に満ちたポップ・ワールド
コトリンゴの歌を聴いていると、どこかおとぎ話の世界に誘われているようで、空想と現実の区別がつかなくなる。彼女のふわりとした軽やかな歌には、そんな不思議な空間が漂っているのだ。近年では自身の作品だけではく、南波志帆や赤い靴のアルバムにも参加するなど、様々な活動を見せている。そして夏フェスにも多数出演が決まっており、フジロックでは3日目の木道亭に姿を見せてくれた。
木々に囲まれたこのステージに、彼女の浮遊感ある空気が入り込むとさぞ気持ちよいのだろう。そう開催前から何度もイメージを膨らませ、彼女の歌を待ちわびていた。ライヴ当日は開始数分前に到着。すでに木道亭は身動きも取れぬほど大混雑をしており、泣く泣く少し離れた位置で見ることに。この日は彼女のピアノに、ドラムやベースなどを加えたバンド編成でスタートした。ただ場所が悪かったのか、どれだけ耳を澄ましてみても、ほんのり音が聴こえてくるだけ。心地よい世界観を期待していただけに、もどかしく感じてしまった。
その中でも聴こえてきたのは、フリッパーズ・ギターのカヴァー曲”恋とマシンガン”や”おいでよ”など。キチンと耳を傾けないと聴き取れない分、彼女の声にしっかり集中することができたようにも思う。だからかいつも以上に、心の中がカラフルな色で彩られたり、優しい気持ちになったりも……。ただもう少し音量がほしかったというのが本音。次にまたフジに出演する時は、必ずもっと深く彼女のポップ・ワールドに浸りたい。
文:松坂愛
写真:Julen Esteban-Pretel