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7/27 SUNGREEN STAGE

THE FLAMING LIPS

来てくれて、ありがとう。リップス。

最近のフレーミング・リップスと言えばマイリー・サイラスとコラボしてショートフィルムを制作したり、その縁でビートルズの”ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンド”のカバーをしたり、“サージェント・ペパーズ〜”の全曲カバー・プロジェクトを進めていたり、オリジナル・アルバムは『The Terror』以来、まだどんな方向性になるのか見えない。けれども、だからこそ、特にリリースのないこの時期、フジロックに初めてやってくる彼らのステージが、いわゆる00年代に世界中を湧かせた祝祭感溢れるタイプのものなのか?今夏の世界でのフェスを意識した新しいタイプのものなのか?それを確認する気持ちでグリーン・ステージに向かった。

目に飛び込んできたのはシルバーのバルーンを繋ぎあわせた光を反射する背景と、宙にぶら下げられたLEDが仕込まれたロープ状のもの。なんだか『The Terror』の時はこれを山のようなセットに這わせていた気がするのだが、まさか同じものなんだろうか。徹底したD.I.Yをよしとする彼らのことだからそれもなくはない。

一瞬、ステージに走りこんできたウェインは、筋肉を描いた全身タイツ(全身スーツ?)に身を包み、大事な部分の毛にあたる部分はシルバーのキラキラをぶら下げている。要はヌードの芸術的表現か?改めてメンバー全員、そして怪しいキノコの着ぐるみ、虹を模した着ぐるみに入った女性ふたりも登場し、ユーモラスなのかグロいのかよくわからないリップス・ワールド炸裂だ。LEDを仕込んだロープの内部を光が走り、グッと華やかなムードになったところにピアノがやさしい“The Abandened Hospital Ship“がグリーンを包み込む。そして早くも2曲目には”Yoshimi Battles the Pink Robots,Pt.1”が、カラフルな風船と大量の紙吹雪の演出で鳴らされると、やっぱりこのバンドがやりたいことは、自分たちのセンスで、それが別にゴージャスでなくとも、キモいと言われようとも、楽しさや生来のサイケデリアを伴って祝うことなのだと実感。モッシュピットに詰めている長年のファンも、初めて見て爆笑しながら楽しんでいる人も、このヒネリの効いた祝祭に魅了されている。

その後もさまざまな妙ちくりんなキャラや着ぐるみが登場したのだが、そのどれもがきれいとかかっこいいとかとは無縁の、どこかおかしなヤツらばかり。人間だったらきっと悲しい人生になりそうな彼らを抱きしめ、出番が終わると引率してステージから袖に連れて行くウェインを見ているだけで、なんか泣けるのだ。本人は単に面白いものが好きなだけなのかもしれないけれど、どう考えたってやさしさが溢れている。まあ、嫌いなものも同じぐらいたくさんあるだろうけれど。

ちょっと意外な選曲だったのは、ケミカル・ブラザーズのナンバーにフィーチャリング参加した”ゴールデン・パス”をカバーして披露してくれたこと。凡百のシンセポップがストレートに聴こえるぐらい、どこか哀愁とホーリーなムードを携えたエレクトロポップがそこにはあった。

もちろん、お待ちかねの”レース・フォー・プライズ”は、あのシンセのイントロ一発で歓喜が何倍も膨れ上がるのだが、最近のアレンジは、ウェインの歌い出しまでに少し間があり、しかもかなり静かなイメージ。穏やかさややさしさは元来ある彼らの資質のようなものだと思うが、ノイジーさやビザールな味わいはかなり減退してきていて、あんなにカルトスターだったリップスが普遍的なメロディでさまざまなオーディエンスを感動させていることに若干、センチメンタルな気分も…とか、思っていたら今回はもうやらないかな?と予感していた”ウェインの大型バルーンでクラウドの上を転がる”パフォーマンスが実現。1曲のためにだけやってくれたのがちょっと嬉しかった。

そして大団円はあらゆる愛、Love、世界中の言葉を挙げていったらキリがない感情が横溢する”A Spoonful Weights a Ton”で会場ひとつになっての”Love Love Love Love”の大合唱。やはりこの曲のメロディ、か弱い感じのウェインのボーカルの切実さは色褪せない。それを言えばもう、その次の曲のイントロが鳴った瞬間に涙腺が決壊してしまうぐらい、音楽そのものの力とメッセージは強いと感じさせる、そう、ラストは”Do You Realize??”。「君はわかってるかい?君の知り合いはいつか死ぬということを」。でもその前のフレーズは「君はわかってるかい?幸せに泣くことを」だ。普段、意識したくないことほど歌にすることが大切であることをこの曲ほど知らせてくれる曲はなかなかない。

どんな偶然か必然か、今同じ場所にいる何万人かとこの曲を共有したこと。フジロックに来てくれてありがとう、フレーミング・リップス。

PS ライブ終了後、セットだったバルーンをバラしてファンに配るバンドなんて、いないと思う、ホントに。

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