T字路s
心を一直線に射抜く激情のブルース
午後4時のカフェ・ド・パリ。ステージにはギターとベースが1本ずつ並んでいる。道具には魂が宿るという話があるが、ステージに並ぶ2本の楽器はまるで伊東妙子と篠田智仁を思わせる佇まいだった。フジロックで3度目となるT字路sのライブが始まる。
一音でそれとわかる妙子のギターに続いて、パワフルなダミ声が天井を揺らすと、会場内の空気が一変したのがわかった。苗場へのあいさつ代わりに繰り出されたのは〝かえると豆鉄砲〟。心地よいベースの低音に触発されるように、観客たちがゆっくりと体を揺らし始めた。
早くも蒸し風呂のような熱気を帯びた会場に〝その日暮らし〟や〝この夜いつまで〟など、ブルージーでメロディアスなナンバーが次々と投下される。歌っている時は感情を剥き出しにして叫び続ける妙子だが、MCになると途端におどけた調子に変わるのが面白い。むせ返るような熱が充満した会場に向かって「暑いからみんなも水分補給してね。お酒をたくさん飲むといいよ!」と笑いを誘い、「みんなでカフェ・ド・パリのお酒を飲み干そう!」と観客を煽った。暑さのせいだけでなく、気持ち的にもグッと酒をあおりたくなる。
勢いを増した2人は、今年6月に発売されたカバーアルバム「Tの讃歌」から、森進一〝襟裳岬〟を披露。誰もが聞き覚えのある昭和の名曲が、まったく新しい表情となって目の前に現れた。原曲の良さもさることながら、人の「声」の力を感じずにはいられない。言葉の意味ではなく声ソノモノが持つ力において、妙子のそれはどこまでも真っ直ぐで力強い。足元からぞくぞくした震えが上ってくるのを感じた。
ライブの終盤には、ヘブンでのステージを終えたばかりのハンバート ハンバート・佐藤良成が飛び入り参加。こういったサプライズこそフェスの醍醐味だと言えるだろう。珍しいカルテット編成での演奏だったが、これが見事なまでに親和していた。一緒にレコーディングを行った〝少年〟を皮切りに、〝新しい町〟、〝T字路sのテーマ〟と駆け抜け、大きな歓声に包まれたままライブは大団円を迎えた。
T字路sの演奏には、見る者の心を鷲掴みにするばかりか、握り潰すような強烈さがある。今日のライブも熱気とともに、多くの人の記憶に深々と刻まれたに違いない。