clammbon
全神経を研ぎすましていく
結成20年のアニバーサリー・イヤーであるclammbon。5年ぶりにアルバム『triology』をリリースし、現在は『tour triology』と題された全国ツアー中である。そんな彼ら、他のバンドへのサポート参加なども考えると、毎年出ているんじゃないか?と思うほど、フジロックと縁深いのは周知の事実だろう。clammbonとしては、ホワイトステージを2回、レッド・マーキーを1回、フィールド・オブ・ヘブンを1回。そして、近年で言うと、11年にグリーン・ステージを踏んでいる。そういう意味だと、今回は久々とも言えるだろうか。
ホワイト・ステージの方へと向かっているすがら、聴こえてきたのは「リハーサルですからね」と何度も念押しする声と“はなれ ばなれ”と“サラウンド”。「リハーサル」だと、念押しされている中でも、やはりここはどうしても向かう足がだいぶ早足になってしまう。音が聴こえてくるだけでも嬉しいもので、到着前からついついテンションが上がってしまった。そして、定刻の20分ほど前に到着。あたりを見渡すと、すでにギュッと観客で埋め尽くされており、あぁ、もっと早くきておけば良かった…と少々後悔してしまったのが本音である。いや、でも、同時にソワソワもしてしまうんだけど。
すっかり暗くなった20時ちょうど。ヴォーカル&キーヴォードの原田郁子、ベース&ギターのミト、ドラムの伊藤大助のメンバー3人がステージに出るやいなや、ミトが早速こう話す。「どうもclammbonです。突然ですが、今からゲストを呼びたいと思います。レッド・マーキーでめちゃ良いライヴをしたゲスの極み乙女。から、休日課長(ベース担当)!」と。突然過ぎて、驚きと期待とが交差している中、「みんないい〜? Clammbon始めます」と、すぐに“Re-ある鼓動”へ。「ホワイトー! きたぜー!」というミトのテンション感も相まって、早速、グググッと身体の温度が高まっていくのを実感。あぁ、またホワイト・ステージで彼らを観られるなんて。2007年以来だろうか。あの時、入場規制がかかり、身動きが取れなかった中でさえ感じられた幸せ度がフワッと甦ってくるようだった。もちろん、当時とは状況も違う分、同じライヴなんて存在しないし(当たり前だが)、彼らの場合は天候などに寄り添いセット・リストもガラリと変える分、まったく違うものになっていくのだろうな、と想像しながら、ではあるけれど。それにしても、ゲストとは思えない、休日課長とclammbonとのフィット感。違和感なく、その場にいる感じがある。コラボレーションは1曲だけで、「from ゲスの極み乙女。休日課長—!」というミトの紹介とともに大きな拍手に包まれながら、ステージ外へとはけていった。
「改めまして、clammbonです」と原田郁子の挨拶の後に始まったのは、“シカゴ”。イントロの音がさっと響いただけで、大歓声である。そして、「ちょっとここではもう演奏しないであろう曲をやってみたいと思います」と演奏されたのは“星間飛行”(アニメ『マクロスF』のオープニング曲および挿入歌)。現在のツアー中でも数回披露されているが、まさかフジロックでも…と予想外過ぎて、不意打ち気味にグッとくる(ちなみに、確か、『マクロスF』をきっかけに“ハレルトマヂカ”の最初のコード進行ができたというくらい、実はclammbonとアニメって繋がりがある)。
「私たちはバンドができて20周年になりました。やっと20歳だ。新しいアルバムを出したんだけど、この場所に似合うんじゃないか?という曲をやります」。そう原田郁子が言い、演奏されたのは“noir”。その後の“雨”もそうだが、どこかに深く、深く、潜っていくような気分になるほど、深遠さを感じさせていく。目に見えた激しさというより、静かなムードだけど、そこにはいろんな機微が存在する、と思えてならなかった。
そして、「またここで演奏できるのがとっても嬉しい」と、“バイタルサイン”へ。2004年の新潟県中越地震の際、ニュースから聞こえてきた「バイタルサイン異常なし」という言葉にインスパイアされてできた楽曲。ここ新潟で演奏する意味、そして、“命の素晴らしさ”、今、こうして動いていること、いろんな思いが流れ込んでくる。また、それをステージ上で全身をもって表現するメンバーの姿にも、ゾクッとさせられた。原田郁子は溢れ出る感情をグッと堪えて、それをキーボードの音へと注ぎ、ミトはあらゆる感情をすべてを解放するように全身で表現。伊藤大助は、ドラマチックに、また1つの音に力強さを乗せて。他の曲もそうだけど、その音に、その時間に、目の前にいる観客に、あらゆるすべてのことに1ミリも手を抜かず、全神経をストイックに集中させていくのである。これほど、何か1つでも向き合えたことってあるだろうか?と思ってしまうほどに。もう、涙が止まらなかった。
その後は、“KANADE dance”、“波よせて”へ。観客とともに歌う場面も多く、曲終わりには「ありがとー!」と原田郁子がその場でピョンピョン飛び跳ねてみせたり、ミトは「鳥肌立ちました」と伝えてくれたり…。一瞬一瞬がとても大切な記憶として残るのだろうな、というそんな気持ちで胸がいっぱいだった。
「思いがけないことって、いっぱい起きるけど、どうしていいか分からないこともあるけれど、でも、続けなきゃいけない、というための歌を作りました。“yet”。まだまだという歌です」との原田郁子のMCの後、“yet”を。間とか余白の部分を楽しんだり、想像力を掻き立てられたり、美しいハーモニーにただ吸い込まれるように浸ったり…というような彼らの楽曲も大好きだけれど、これまで以上に研ぎすまされた楽曲だけに、その曲の中にあるテーマみたいなものを自分なりにしっかり考えられる時間。こういうのも、また良いものだ。その場に立ってライヴを見ているという状況は変わらないけど、心の中はグルグルと気持ちが動き回るようだった。
「終わりたくないけど、次で最後です」と原田郁子が、また「やだよね、じゃあ、次はトリで呼んで。めちゃ楽しかったです。ありがとう」とミトが話し、ラスト曲でライヴの定番曲でもあるフィッシュマンズのカヴァー“ナイトクルージング”へ。いやはや、またも、忘れられないホワイト・ステージの記憶ができてしまった次第である。