WHITE STAGE 7/24 SUN TAGS : LIVE REPORT 7/24 SUN WHITE STAGE

ROBERT GLASPER EXPERIMENT

LIVE REPORT

老獪なロバートの術中に

 この日、最大の話題はよくも悪くもベビー・メタルで、そのひとつ前に演奏するロバート・グラスパー・エクスペリメントはどんな雰囲気になるのか、興味を持った人も多いと思われる。

 ヒップホップやR&Bを消化した現代のジャズとベビー・メタルでは水と油なのではないかと。ホワイトステージに着くと、ベビー・メタル待ちと思われるメタルTシャツの人が多い。

 始まる前にはずっとケイト・テンペストやハイエイタス・カイヨーテなどおしゃれな音楽が流れている。それがブギ・ダウン・プロダクションズ、エリックB&ラキムなどイキのいいオールドなヒップホップに変わっていく。そして流れている曲に合わせて、ロバート・グラスパーがキーボードを叩く。SEからそのまま演奏に入っていくのだ。

 そして「Big Girl Body」へ。ステージには下手からロバート・グラスパー、その奥にDJ、中央にベースのアール・トラヴィス、フロントには、サックスやヴォコーダーで歌うケイシー・ベンジャミン、右端にドラムスのマーク・コレンバーグである。ケイシーがヴォーカルを取り、後半はサックスを吹く。マークのドラムが細かく超絶技巧である。

 ホワイトステージを埋め尽くしたお客さんたちは、ロバート・グラスパー目当てが1割くらいなんだろうか。でも、ベビー・メタル待ちのお客さんも場所によっては音に反応する人もいる。ロバート自身はどう思っているのだろうか。活動を始めたころはともかく、今は大抵自分のことを好きで観にきてくれるお客さんの前で演奏することが普通であるはずだ。しかし、この日は少々異様とも思われるアウェイ状態でどんな演奏をするのか。それは”Work”と割り切るのか、それとも”Play”なのか。

 演奏自体は盤石。どうこういうレベルでなく高水準である。特にマークのドラムが随所で目を引いた。特に5分くらいに渡るロバートのキーボードとのバトルはおしゃれで洗練の極みなんだけど、その底には緊張感が流れ、演奏が静かな闘争になっていた。レディオヘッドのカヴァーの「Everything in Its Right Place」も、夕暮れに近づいたホワイトステージをクールに包み込み場を支配していたのだった。スクリーンに映るロバートの表情は最初のうちサングラスをしているので容易にはわからないけど、口元は不敵な笑みを浮かべているように思った。

 ロバートとケイシーは時折手拍子を促したりしてお客さんを乗せようとし、けっこうよい反応があった。それはそれぞれのプレイの熱意にホワイトステージのお客さんたちの心が溶かされてく過程をみることができたのではないだろうか。この日のハイライトはニルヴァーナのカヴァーで「Smells Like Teen Spirit」だった。この曲は日ごろから演奏しているものなので、サプライズでもなんでもないのだけど、ケイシーがヴォコーダーを通して歌うと、それを理解したお客さんたちから歓声が上がる。スムースでおしゃれな曲に改造された「Smells Like Teen Spirit」はサビになるとより多くの人たちが気づき、盛り上がっていく。演奏が終わり、ロバートとケイシーがデビルホーンサインをしていたので、自分たちが置かれている状況を完全に理解して演奏していたのだ。そして、もう一回楽器に戻り「Smells Like Teen Spirit」を演奏したときホワイトステージの湧き上がり方は、この老獪なロバート・グラスパーに完全に術中にハマっていたのだと。9割くらいのアウェイが5割くらいにはなったのではないか。ロバートもご機嫌になり自分のスマートフォンでお客さんたちをバックに自撮りをして帰っていたのであった。

セットリスト(原文のまま)
Big Girl Body
Let it Ride
How Much A dollar Cost
All Matter
Lovely Day

Text by イケダノブユキ Posted on 2016.7.24 19:00