avengers in sci-fi
9年ごしのまさに今!
エレクトロのダンスアクトももちろんいいが、人力でダンスビートを叩き出すバンドにロックファンとしては肩入れしたくなる。おびただしい数のエフェクターを用いて人間が楽器で出す音はシーケンサーのつまみ一つでもしかしたら類似しているのかもしれない。でも、肉体を通して表現したいという欲求にシンパシーを感じてしまう。その心情にavengers in sci-fiほどフィットするバンドはいない。
2007年のルーキー出演からなんと9年。10年代は日本には踊れるロックバンドが多数登場した。なんでアベンズがメインステージに登場していないのか不思議なぐらいの歳月である。レッド一番手のHomecomingsから50分(!)という転換時間が意味するものは自明だろう。転換も覗きに行ったが着々とエフェクターやラックが組まれていく様はワクワクする。
バンド名の液晶がスクリーン明滅する中、木幡 太郎(Gt/Vo/Syn) 、稲見 喜彦(Ba/Vo/Syn) 、長谷川 正法(Dr/Cho)が登場。長谷川のキックの圧でご飯がおかわりできそうな最強の出音だ。オープナーはアベンズ号の離陸のごとき”Departure”。映像は銀河系だ。なんなんだこの男子の憧れが詰まった世界観は!そのまま目下の最新アルバム『Dune』から重く振り下ろされるようなビートのタイトルチューンへ。多くのバンドが今、エレクトロや同期を用いた楽曲を作る中、アベンズはすでに数年前にそうしたアプローチは実証済み。新作はどちらかと言えばジミヘンやツェッペリンまで飲み込んだ大文字の”ロック”の血脈が感じられる音像やアレンジが目立つのだ。もしかしてまたしても早すぎるアプローチなのだろうか?少なくとも今、レッドでこの人力ダンスビートに興じるオーディエンスには響きまくっている。
次の曲に入る前に一瞬、Beckの”Devil’s Haircut”のリフを弾く木幡。彼流のリスペクトだろう。そのまま稲見のスラップが重なり”Tokyo Techtonix”へ。ギターでスクラッチノイズを出し、シンセでむしろギターっぽい音を出す木幡を思わず目で追いかけてしまう。天の邪鬼とも単に人がやっていないことをやらないで何がオリジナルだということなんだろう。しかしやはり演奏は見ていて楽しい。シンプルな理由だが、ここにはプレイヤーの夢がある。
5曲演奏し終わってやっと笑顔になった木幡に「タロウ!」とフロアから声がかかり、「どこで俺の名前を知ったんですか?」とまんざらでもなさそう。「僕らルーキーステージ以来、9年ぶりなんですね。よくも覚えてくれていたなと、ありがとう。日本中どこにもこんなに美しいところはないんじゃないですか?…ちょっとクサかったですか(笑)。夏のせいってことで」と、照れながら感激をあらわにしていた。
そのまま「夏らしい曲を」と、ぐっとブライトな音像の”Sonic Fireworks”をプレイ。ラストは長谷川の短いドラムソロから未来の8ビートと言えそうな”Vapor Trail”で締めくくった。連綿と続くロックバンドの美学を自分たちなりにアップデーとしながら進むアベンズは、VRで何でも体験した気になれる今、その素晴らしさも内包しながら人間のプリミティヴな力を実感させてくれる優れたバランス感覚を見せつけてくれた。さすがに9年、忘れられなかった(?)だけはある。
セットリスト
01. Departure
02. Dune
03. Tokyo Techtonix
04. 20XX
05. Citizen Song
06. Sonic Fireworks
07. Nolan, No Youth
08. Vapor Trail