奇妙礼太郎
恋しなきゃ、ウソでしょ。
初日のヘヴンのオープナーにこれほど似合うアーティストはいないんじゃないか。奇妙礼太郎トラベルスイング楽団としては2012年に同じくヘヴンのステージに登場し、今年4月に解散。ソロとして初のバンドスタイルのステージに臨むのがこのステージなのだから。新しいアーティスト写真もシュッとしているし、どんな新しい奇妙くんが見られるのか、ちょっとソワソワする。
ホワイトシャツにハットのメンバーに続いて、ホワイトジャケットとフォーマルな装いの奇妙礼太郎。セミアコでハードなリフやソロを弾きながら、結構ゴリゴリ進む。間髪入れず2曲目も新曲だ。どうやらこのバンド自体も初お目見えなら、演奏する曲も全部新曲なんじゃないだろうか?攻めている。それにしても「眠りを邪魔する奴は一体誰だ」とか「朝が来たら起きる でかいパンをかじる 本当のことを言わなくちゃ」と、全く冴えない日常がどうしてこうも彼の声やシャウトを通すと胸苦しいほどの熱を持つのか。
「昼からどうも。今日このバンドの初めてのライブです。一つよろしく」
それ以上でも以下でもない事実。受け取る方であとはどうぞよろしく、そんな感じだ。
ハンドマイクになるとギターを脱がされたようになぜか恥ずかしそうな仕草をしたり、別にこれまでのバンドでもやってきたことだと思うのだが、なぜか一挙手一投足が新しい。その時にしか見ることのできない奇妙礼太郎という人間の反応を私たちは見たいのかもしれない。
さて、ここにいる今まさに恋に落ちそうな男女の背中を押しまくるエモーショナルな歌が続くのが幸せでもあり、本当に恋に落ちる確率が高そうでなかなかスリリングでもあるのが彼の歌のすごいところなのだが、この新しいバンドではより「恋をして傷ついて、それをしたいんだ」という生々しい希求が凄まじい。
なので、「最近凝ってることがありまして、大したことじゃないんですけど、下の毛を全部剃ってます。気持ちいいよ。といった感じの歌を歌います」と、あながち素っ頓狂なだけでもないMCがやはりこの人ならでは。
それで何か異常なまでの快楽と愉悦の歌を歌うのかと思ったら、終電を逃して誰もいない駅のホームで思い出す、殺伐とした、でもリアルな夏の景色や、誰もいない荒れた自分の部屋。ああ、この感覚知ってると思った。身軽だけどつまらない。終電を逃したけれど本当は帰りたくなかった、と歌われるロングトーンのせつなさったらない。
続いてすでに配信されているソロ第一弾シングル「七色LADY」がポップなグルーヴを醸成して存外暑さを増してきたヘヴンをさらに熱くしていった。
終盤にはヤクザも政治家もダンスする、黒いダンス、白いダンス、黄色いダンス、とちょっと大げさな解釈かもしれないが、今、時代に逆行するような悲しい事件が起こる中、音楽ができることを思い出させてくれるようなグルーヴィチューンも投げかけてくれたのだった。しかも盟友・松井洋平も加わっての熱演。
なんとなく面白くて、でも恋の真実を歌い、ほっておけないこの人は少しだけ、ソロで新しい意志表現を始めたのだと思う。それにしても…この後、どれぐらいカップルが誕生するか楽しみだな。
セットリスト(原文のまま)
ヒマラヤ
ROCK’N’ROLL
ブルース
サマーソング
Baby NOW
バラード
七色LADY
DANCE
酔っぱらってるいつも