FIELD OF HEAVEN 7/24 SUN TAGS : LIVE REPORT 7/24 SUN FIELD OF HEAVEN

KAMASI WASHINGTON

LIVE REPORT

今一番ホットなジャズを堪能せよ

フジロック最終日、ここヘブンのトリを飾るのは、新世代ジャズシーンの中でも最もホットなジャズプレーヤーのひとり、カマシ・ワシントンだ。3枚組170分超えという大ボリューム内容のアルバム『The Epic』は世界各地で大絶賛され、昨年のブルーノート東京での初来日公演も成功をおさめている。

演奏時間帯がレッチリとかぶるということもあって、若干人は少なめだが、ジャズ愛好家や、『The Epic』を聴いてライヴをぜひ観たいと思ったという人など、カマシのことを知って来ている人が多そうだ。ステージ前で待つオーディエンスの期待値は相当高い。

ステージがゆっくりと暗転し、カマシとバンドの総勢7名が登場した。「ハロー!フジロック!!(アメリカの)西海岸から楽しみにきたぜ!」とカマシ。ステージ左右後方の陣取られた2ドラムが叩き出すマーチングビートの上を、トランペットとカマシのサックスのホーン・セクションがフリーにブロウする。ブレイクの後、軽快なピアノのタッチから、一斉に出力される”Change of the Guard”のテーマ。ものすごい音量だ。身体全身にビリビリと響く。トランペットのアドリブが続く。バックのウッドベースとツードラムの上を無尽にブロウするトランペットのアドリブ。それを嬉しそうに見守るカマシ。続いてカマシが「俺のを見とけっ!」という感じで周囲のメンバーを見渡し、アドリブをかます。ものすごい音量だが、辛そうなところが全然ない。あの巨体ならでは肺活量によるものなのだろうか。時にファンキーに、時にテーマにそったメロディのアドリブを入れたりして、さながら彼のアイドルのコルトレーンのように、フリーに不協和音を出力したり、縦横無尽にブロウしているのだ。

スペシャル・ゲストとしてカマシの父親のリッキー・ワシントンを呼び込み、敬愛するおばあさんのことを語り、彼女に捧げられた曲”Henrietta Our Hero”を披露。パトリス・クインがウィスパーボイスでしっとりと歌い上げ、リッキーがフルートのアドリブを小鳥のさえずりのように吹き、会場に爽やかな心地よさを醸成するのだ。横でカマシが父親のアドリブを嬉しそうに見ている。リッキーの高らかにスピリチュアルに美しく響き渡るフルートの音色が最高だった。

お次は、カマシも参加したというベーシストのマイルス・モーズリーのリード作『Uprising』からの曲”Abraham”。重厚なマイルスのソロプレイからはじまった。さながらジミヘンのようなブルージーなフレーズを奏でまくる。ファットな音で迫り来る怒涛のグルーヴは「圧巻!」の一言だ。カマシがこの曲を披露する前に言ったとおり、マイルスはめちゃめちゃパワフルな男だ。弓を持ち出しノイズを撒き散らすは、オーディエンスとコール&レスポンスをやるはで、もはやロック。激アツのステージにオーディエンスも腕を突き上げ、体を揺らし本当に楽しそうだ。

お次は、カマシがトニー・オースティンと、ロナルド・ブルーナーJr.の二人のドラマーを紹介し「ドラムで会話しようぜ!」と、二人のドラム合戦がはじまった。凄い!ぴったりと合った打ち出すリズム、本当に会話をしているみたいだ。そのままトニーのソロへと移行する。緩急をつけたニュアンスをビートに盛り込み、地味ながら華のあるプレイをし会場を沸かせる。お次はロナルドだ。パワープレイな入りもすごかったが、とにかく繰り出す手数が多さが何よりすごい。ビートが耳に際立ち易い、ロックなドラミングにフロアは大盛り上がりだ。

キーボードのマライアン・ポーターを紹介し”The Magnificent”を投下。ドラムンベースのやうなビートだ。ギターごとくマクライアンが肩に掛けたキーボードで変音しながらファンキーなタッチをきめまくる。仲間のアドリブ中は他のメンバーが「スゲェ!」とか「もっといけ!」「俺も負けねえぞ!」といった色んな想いが感じられる笑顔で見守っている、その雰囲気が暖かくて最高なのだ。マクライアンのアドリブはとにかくすごい!時にファンキーに、時にソウルフルに、そして時にPファンクなドス黒いグルーヴを撒き散らす。マクライアンのアドリブに続けと、カマシが爆音でブロウしまくる!最後に腕を振り上げ、締めくくった。

ラストは”The Rhythm Changes”だ。カマシが浮遊感漂う優しい音を奏で、そこにリズムセクションが力強く入り、パトリスの美しい声が流れる。めちゃめちゃ気持ちいい。先ほどの”The Magnificent”と打って変ってムーディーに吹き上げるカマシ。テーマをベースに展開したフレーズを何度も何度も繰り返し出力し、ラストに向け音量をどんどん上げていく。それこそ天に届きそうなほどに。カマシの全力ブロウの後、全員渾身の爆音を出力しきって締めくくった。鳴り止まない歓声に戻ってきてアンコールに応えた。ファンキーなグルーヴを醸成し、楽し過ぎる雰囲気のままステージを後にした。

極上のミュージシャンシップを持つアーティストが集まり、カチッとはまった時のライヴはこんなにもかっこいいのか。今年のフジロックの最後に、本当に質の高い、いいライヴを観れて幸せだ。そして、ジャズに対する興味がますます高まったのは言うまでもない。

セットリスト(原文のまま)
Change of the guard
Re run
Henrietta
Abraham
The Magnificent
The Rhythm changes

Text by 三浦孝文 Posted on 2016.7.25 05:12