コロナ禍以降のフジロックでおそらく最高動員数を記録しているはずの7月29日フジロック２日目、移動も混んでいるし、飲食も長蛇の列だ。オレンジカフェの店に並んだら50分くらい待った。それだけ大勢の人たちがフジロックに来ているのだけど、それぞれが選んだ行動は誰一人として同じものはない。観たアーティスト、食べたもの、休んだ場所、それぞれの選択の集積があるのだ。そんな中で、自分が観たアーティストはそれぞれの相手と戦っている人たちが多かったような気がする。

グリーンステージの1発目はGEZAN with Million Wish Collectiveだった。2021年レッドマーキーに出演したときも並々ならぬ決意を持って壮絶なステージをみせてくれたように、今回のグリーンステージでも気迫のこもった演奏をみせてくれた。ゴスペル、ヒップホップ、ハードコアパンクという雑多な食材をロックという鍋で煮込んだようなサウンド。そこには、マヒトゥ・ザ・ピーポーの強い意志が貫かれて思想と音楽が幸福につながっていたのだった。ルーキー・ア・ゴーゴーから始まり、ホワイト、レッド、そして今回のステージに上がったことにマヒトゥ・ザ・ピーポーは思いを語る。そしてブラフマン/OAUのTOSHI-LOWなど多彩な人たちも飛び入りして盛り上がりをみせたのだった。

ホワイトステージのITACA BANDはスペインのカタルーニャ地方出身のバンドで、フジロックでは南ヨーロッパのこの手のバンドは外れがないことで定評なんで、たくさんの人が集まって盛り上がっていた。カタルーニャも自分たちの主張をすればスペインの中央とどうしてもぶつかってしまうという地域で、その中で鍛えられたゆえにエンターテイメント力が高まったのだろう。座らせてからのジャンプ、モッシュサークルを作らせる、左右に分けて声出し合戦をさせるなど、楽しませることはひと通りやった。

Dermot Kennedyはアイルランド出身のダミ声のシンガー。アイルランドの偉大な先達の集大成のようなソウルフルな声を持つ。フィル・ライノット、シネイド・オコナー、ボノなどアイルランドのミュージシャンたちの歩みは、貧困や差別や対立やテロや圧制との対峙の歴史でもあるわけで、そのポップさの中には先達の戦いが刻まれているのだ。Kiss MeなんかはソフトなU2みたいでもある。最後は”Something to Someone”を合唱させた。

フィールド・オブ・ヘヴンで演奏したインド出身のJATAYUは、ブルース・ロック〜フュージョンなどジャンルをまたぐインストゥルメンタルのバンドである。フレーズの端々にインドぽさを感じられる。インストゥルメンタルのバンドにしては饒舌にお客さんに語りかけ、見せ方が面白いバンドである。

2021年、緊急事態のMETAFIVE以来出演となるTESTSET。その間にバンドとしてまとまってきて、非常に充実したコンディションでホワイトステージに立つことになった。相変わらず、スクリーン背後に映しだされる映像はスタイリッシュだし、音質のよさはMETAFIVEのときの印象と変わらない。元々音質はよいのだけど、ホワイトステージに出演したバンドの中ではトップクラスだったのではないだろうか。思った以上に生々しいロック色強いサウンドで、（ロックの中のさまざまなジャンルにこだわらずに）ストレートに「ロック」のまま格好いいを目指したらこのような音になるのではないか。その役割を担っているのはもちろんヴォーカルのLEO今井なんだろうけど、メンバー4人が4人とも持ち寄った背景は違っても目指すところが同じだったので成立した奇跡の状況なのではないか。

フィールド・オブ・ヘブンのGoGo Penguinはピアノ、ベース、ドラムのトリオ。透明感あふれるピアノの音色が美しく、リズム隊が疾走する。ヘブンにはたくさんのお客さんを集めていた。

ホワイトステージに登場したCAROLINE POLACHEKはフジロック出演に感極まって涙ぐんだり、トンボと遊んだり、笑顔をみせたり表情が豊か。立ち居振る舞いも美しく夕暮れのホワイトステージを埋めた人たちを魅了した。音楽も美しい世界を作り心地よかった。Weyes Bloodが飛び入りして2人が歌いポーズを決めると、これぞシスターフッド！という感じがした。観た人たちがみんな好きになる感じ。厳しい戦いののちに得られた美しさである。