FUJIROCK EXPRESS '25

LIVE REPORT - GYPSY AVALON 7/26 SAT

アトミック・カフェ 春ねむり

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Posted on 2025.7.27 15:49

どれほど先は長くとも、偉大な一歩を讃えた今日この日の祝祭

先週のPYRAMID GARDEN -Beyond the Festival-から苗場にいて忙しくしていたので、正確な情報は追いきれていないが、“参政党批判”とやらで“炎上”したらしい春ねむり。数年前のルーキーにまつわるひと騒動以前から注目していた身としては、何をそんなことでとしか思えないが、参院選の夜はとても暗い気持ちになったのは事実だし、同じ気持ちを持つ人もたくさんいる。ずっと待望していた春ねむりが、今このタイミングでフジロックに初出演することには大きな意味がある。

配信を望む声もちらほら聞いていたし、これはライブをまわって記事を書く身として、絶対に書き残さなければならない。若干気負っていたところもあったが、フォトグラファーも同じ気持ちで希望したそうで、気持ちを新たに向かったジプシー・アヴァロン。岸本聡子、ジョー横溝、津田大介によるアトミック・カフェ トーク day2【民主主義と自治】も最初から観るつもりが、ホワイト・ステージの予想外の混雑で完全に止められて、後半に到着。トークの内容については別の機会に譲るが、様々な考えるきっかけがあったし、突然の大雨にも動じず熱心に耳を傾けるオーディエンスを讃える、ジョー横溝の姿が印象的だった。

そして、いよいよ春ねむりが「NO RACISM」「反差別」のフラッグを携えながら登場。大雨の中佇むオーディエンスに向けて “anointment”や“panopticon”を披露。きらびやかだがどこか緊張感が漂う音像と破壊的なビートに乗せて歌い踊る春ねむり。その身振りはフリースタイルのようでいてコンテンポラリー・ダンスのようでもあり、「ポエトリーラッパー」と一口に言っても、ヒップホップやアイドル、激情ハードコアからハイパーポップといった様々なニュアンスが感じられる表現力に、僕らも踊りながら揺さぶられる。

そして「振れるものがあれば振り回して」と“Riot”をドロップ。前方のオーディエンスにフラッグが配られ、彼女と一緒に旗を振りタオルなどをぶん回す、フジロックで見たことのない光景。彼女が「よかったら後ろの人にも振って欲しいから」と促し、いくつか後ろのオーディエンスにも手渡されたフラッグ。その熱量がジプシー・アヴァロンに広がっていく。

「多分私が政治のことを話すからこのステージに呼ばれたのだと思う」と話す春ねむり。なにか思うところはあるのかもしれない。日本国籍を持ったシスジェンダーという自身の特権性とその責任に触れながら、このアトミック・カフェのライブにMステや紅白に出るようなメジャー・アーティストが出て、「どう思う?」ってみんなと話してほしいという、来年は難しくとも10年後には実現したい願いを話す。

「入管法改“悪”の時に書いた曲」と、次の曲を紹介する春ねむり。ウィシュマさん、参院選に受かったクソ議員、受からなかった石川大我さんについて触れながら(気になった方は調べてみてほしい)、自分の音楽がかっこいいと証明し続ける決意。そして、この後も何度か繰り返す「それぞれがそれぞれにできることをやろう」という言葉が僕の胸に残る。

トラップ調のビートとノイジーなギターに彩られた“Wrecked”に続いて、最前列で踊っている赤いレインコートの人が着ている、GEZANのような荘厳な怒りを讃えたダンスビートと、とりわけ“政治的な”リリックが突き刺さる“symposium”。終盤にかけて勢いを増すビートが鳴り響く中、彼女は「フジロックおめでとう」の言葉とともに発煙筒を掲げ振り回す。フロアにポイっと投げたそれを拾った一人が生み出した、ステージを覆うピンクの煙。何も見えないまま気持ちのまま踊るオーディエンス。なんて光景だ。こんな光景だってフジロックでは見たことがない。

煙が晴れてきて、みずみずしいピアノの音を背景に、誰かの尊厳が奪われることが起こってほしくないという思い、そのために最も必要なのは、パレスチナが解放されること、イスラエルが虐殺をやめることだと話す。アヴァロンにこだまする「パレスチナを解放しよう Free Palestine」、大雨によるトラブルかと思うようなノイズから、”ディストラクション・シスターズ”では思いを絞り出すように、春ねむりは叫ぶ。

来週発売されるニューアルバム『ekkolaptomenos』から、荘厳なマーチのようなビートに乗せて歌う“iconoclasm”。周りをみると台湾独立のフラッグを羽織った人や、フジロック22のウクライナ人道支援プロジェクトの手拭いを巻いた人、そのようにアイコニックでなくても様々な思いを抱えて彼女の力強い歌に共鳴している。フジロックでこんな気持ちになったことはない。

でもこけそうになって自嘲したり、フジロックで踊ってばかりの国が絶対見たかったのに奇しくもタイムテーブルの真裏だったことを笑いながら話したり、少したどたどしく言葉を紡ぐ彼女は、“強い女”でも、誰かが言うところの“ややこしい女”でもないんだと思う。僕らと同じただの人間。それでもやむにやまれぬ思いをどこまでも真摯に表現に託す姿は、かつて隣のステージで観たJPEGMAFIAの姿を思い出した。

ここに立ってライブができること、あるいはこうやってフジロックに来られることがすごく特権であって、自分が持っている特権みたいなものを少しいい方向に使えたらいい、みんながちょっとずつそれをやったら世界は少し良くなる。そんなことを話す春ねむり。それぞれがそれぞれの暮らしの中でできることを少しだけやろう。そう思ったらなんでもいいからやってみよう。それがおもしろい人生をつくり、おもしろい人生が増えたらおもしろい世界が増える。彼女が絞り出したそんな言葉に、僕はあたたかい希望を感じる。彼女は決してオーディエンスに向かってやれともやるなとも言っていない。でも、今日この日に何かを感じたのなら、それがきっかけで何かが動くかもしれない。

そして、最後の曲について話す春ねむり。「人生はなんて美しいんだ」って思う瞬間、そう思えない時の方がはるかに多い人生。察した僕は思わず泣いてしまう。春ねむりも泣いているようだ。でも「そう思えたんだ」って思うことがあなたを生かし、私のことも生かす。もし「そう思えない」と思ったとしても、それを口に出していってみてほしい。そう思える時があったってことがきっとあなたを明日生かします。そしたらまた会えます。彼女はそんな風に話した。

そしてはじまった“生きる”で、いつの間にか晴れた空の下で、彼女はオーディエンスのもとに飛び込んで歩き回りながら歌う。彼女に合わせて「How beautiful life is!」と歌うオーディエンス。僕だってそう思えない日はいくらでもある。でもここにいるみんなで歌ったことを僕は心から誇りに思うし、もみくちゃになる中でふと目が合った隣の人が、涙でくしゃくしゃになった顔を見て微笑んでくれたこと、それがすごく嬉しかったことを僕は忘れない。

____

僕は、ことさら彼女と政治や社会問題を絡めた語り方を本当はしたくない。僕が彼女の表現が好きなのはただ素晴らしいから。それ以外の理由なんて何もない。アトミックカフェにメジャーアーティストが出るようになればいいと話したのと同様に、彼女もホワイトやグリーンで表現できる日が来ればいいなって思う。「政治的なことを話していいステージだからこういうことを話してるわけじゃなくて」と言っていたように、「政治枠」みたいな見方じゃなくて、もっと普通にいろんなステージで春ねむりの姿を観たいなと思う。なぜなら春ねむりもフジロックも、ここに訪れる人もそれができると信じたいから。

でもそれでも今日ここで「フジロックおめでとう」と号砲を鳴らしたこの祝祭は偉大な一歩で、ここに居合わせた人も多くのことを感じとったと思う。僕は唯一の心残りとして、持っていたのに、そうしたかったはずなのにこの場でパレスチナのフラッグを出さなかったことを悔いていて、缶バッチはつけられるのに何がそうさせるのか考えながらボードウォークを歩いた。でも同じ場に居合わせた取材スタッフと話すことで気持ちが解けて、そのあとのバリー・キャント・スウィムフォー・テットの時間にフラッグをはおりながら過ごした。詳しくはまた別の記事に書けたらと思うが、とても清々しい気分だった。最終日はここに居合わせた取材スタッフにフラッグを託してみようと思う。

みんなそうすべきとは僕には言えないし、それぞれが感じているハードルはあると思う。「そんなこと絶対にできない」って人も「なんでそんな簡単なことができないんだ」って人もいると思う。でもやりたいと思っていることはやってみたらいい。意外と想像していたハードルはたいしたことないかもしれないし、やったから感じることも確実にある。春ねむりと過ごしたこの祝祭が僕を少しだけ変えてくれた気がするし、他にもそんな人はいると思う。そしてそんな一歩が別の誰かの一歩につながるのなら、それこそが春ねむりが話したおもしろい人生であり、おもしろい世界なんじゃないかと思う。フジロックの日々もその後の生活でも、それぞれがそれぞれにできることをやろう。Free Palestine

[写真:全10枚]

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7/26 SATGYPSY AVALONXSUMI