多分、今年のルーキー・ステージでは一番世間に名前が知られているバンドだと思う。平均年齢20歳そこそこという”踊ってばかりの国”は、ラフでユニークでサイケデリックなサウンドが肝の新人5人組。奇抜なバンド名が特徴である彼等は、前述の通りに既に話題となっている存在だ。CDを某レンタルショップでレンタルすることも可能だし、今年発売されたアルバム『グッバイ、ガールフレンド』のレビューを雑誌やWEBで見かけることも多かった。世間的にもかなり期待されているバンドといっていいだろう。個人的にも期待は高いし、ルーキー・ステージに集まった人数もこの時間にしてはかなり多かったこともそれを物語る。
『苗場のクソヤローどもー、踊ってばかりの国です。4曲やったら帰るんでー』というやんちゃな宣言から始まったこの日のライヴ。言葉とは裏腹に、紡がれる音のひとつひとつは客席に向いていて、心にジンとくるものがある。ブルースやサイケ、フォークを下地にしたサウンドを柔らかなアコギの音色と歌がやんわりと包み込み、意外とポップにくるまれている印象。この日も丁寧な演奏で、少しねじの外れた詩を朗々と歌い上げている。それが琴線を妙につついてくる。不思議と親しみやすさを持ったメロディも染みてくるだろうか。けれども、程よく毒素もはらんでいるのか、やけに気持ちよさも増幅される。
3曲目まではそんな感じの曲が続いて、ゆるく心地よい気分を味わっていた。しかしながら最後に演奏された曲(多分、10分超える「テカテカ」という曲だったと思う)で脳天ぶっ飛ばされた気になった。前半に紡いだしっとりとした雰囲気が中盤から堰を切ったように溢れだした轟音が押し流していく。渦巻くギターと硬質なリズム、荒々しく叫ぶヴォーカル、さっきまでと別バンドかと思えるぐらいに感情のスイッチが入った演奏で牽引する。急激にその膨れ上がった音圧に合わせてバンドのアクションも激化し、景色を一気に塗り替えてしまった。爪を隠していたともいうべきか、こんな凶暴な一面を隠し持っていたとは驚きだ。のんびりとした歌声と演奏のゆるさに心地よい気分を味わっていた自分からすると、仰天の転換、ゆえに現出した鮮烈な世界にぶったまげた。最初は普通の青年たちだったのが、終演後はまるで別のオーラをまとって見えてしまうのが末恐ろしい。
写真:岡村直昭
文:伊藤卓也