作品を作る度に変化していく彼らのスタイル
以前にインタビューをした別のとあるミュージシャンがこう言っていた。「昔は作品を作る度に、まったく違うジャンルの音源を作っていた。最近のアーティストは営業上手なのか、似たような作品しか作らないね」と。INCUBUSはまさに前者で、作品を発表するごとに新しい自分らを提示してきた。ここ5年間はほとんど活動をしていなかったが、彼らのスタイルは今でも変わっていない。それは7月に発表されたばかりのアルバム『If Not Now When?』を聴くとよく分かるだろう。
もしかすると作品毎にテイストを変えるのは、リスナーを突き放していると感じる人もいるかもしれない。だが、結成して20年が経とうとしている中でも、新たな音を求め続け、今だ同じような作品が出ていないのは貴重だし、素晴らしいことだと思う。そしてこのリリースのタイミングで、もうひとつ嬉しいことに7年6ヶ月ぶりとなる来日も実現した。
2日目ホワイト・ステージのトリ。彼らがフジロックに出演するのは、今回が初となる。INCUBUSを見たいがために、重い腰を上げた人も多くいるだろう。開始15分前でも、すでにステージが遠くに感じてしまうほど、会場がみっしりオーディエンスで埋まっていた。ライヴは”Megalomaniac”からスタート。個人的にも1曲目で演奏してほしいと思っていただけに、果てしなく純粋な喜びがググッと体中に充満していく。
さらに、適度に新旧を織り交ぜたセット・リストを展開。最新アルバムの濃厚でスロー・ナンバーな楽曲はもちろん、ダイナミックなナンバーまでも今の自分たちらしさに染めていく。結成当時、彼らはオルタナティヴ・ロックとして認知されていたかもしれない。しかし、今はどちらかと言うとロック色が強いからか、ガッツリ迫ってくるというより、どこか冷静さを兼ね備えているのだ。
だからといって、エネルギッシュさやエモーショナルさが失われているわけではない。Brandon Boyd(Vo/Percussion)は、緊迫感というより、どこか伸び伸びとステージに立っているようにも感じられる。それに、楽器隊のメンバーたちは、激しく動くわけではないが、内面から沸き上がるオーラが凄まじいのだ。そして改めて痛感したが、動作ひとつ取っても、ここまで絵になるバンドはそう見つからないだろう。瞬きするのが嫌になってしまうほど、見逃したくない場面ばかりであった。
新しいアルバムを作ったことによって、少しロマンチックな部分が増した彼ら。どんどん変わってしまうからこそ、今この瞬間の彼らを見ることができたことにより一層感謝を覚える。また機会があれば、ぜひライヴに足を運びたいものだ。
文:松坂愛
写真:佐俣美幸