ホワイトを揺らす、オヤジの粋
(以下、アーティストの皆様に対しリスペクトと愛情と込めて「おっさん」または「オヤジ」等お呼びする箇所が御座いますが、何卒ご了承下さい。)
やはりオヤジの見せる貫禄と余裕はカッコいい。なぎら健壱にFUJI BLUES PROJECT、YMOにWILCO。かなりのおっさん充で迎えたフジロック三日目。日が暮れると会場周辺の森は漆黒の闇に包まれ、艶っぽい照明に照らされたホワイトステージが昼間とはまた違った表情を見せ始める。これまたどこのプログレですか、とツッコみたくなるような大げさな登場SEが流れ始めると、会場を埋めるお客さんの間から次のバンドを呼ぶ声、「CAKEコール」が起き始めた。
最新アルバムを全米ビルボード・ナンバーワンに送り込み、2005年のグリーンステージ以来6年ぶりにフジロックに登場してくれたCAKE。口からフェロモン出てるでしょと言いたくなるくらい、い~い湯加減の歌声で魅了するボーカル&ギターのジョン、そして哀愁が炸裂するトランペットにキーボード、コーラスと大活躍のヴィンスの二人を中心にしたオルタナ・カントリーサウンドだ。ジョンは野球帽に青いブルゾンと「休日のお父さん」全開のいでたちでステージ中央に立っている。でもそれが何故かカッコいいのだ。ライヴ中に「カーーー!」と鳴らしまくるビブラスラップも、水戸黄門の効果音風味満点である。イカすぜ、オヤジ。
ライヴは"Frank Sinatra"で渋くスタートする。が、甘く乾いたギター・サウンドにジャジーなリズムが加われば、待ってました! とばかりにウキウキ身体を揺らすフジロッカーズ。お客さんもイカしてる。ミラーボールも廻り始め、彼らの演奏でたちまちホワイト周辺は巨大な野外ダンスホール状態に。これぞフジロックの粋! って感じだ。
ライヴ中、ジョンが「恥ずかしがらずに! 大きな声で!」とお客さんに言いながら始めたのは、会場を左右二つに分けた、お客さん参加型コーラス合戦。ステージ向かって左サイドが「ア~アアア~♪」とコーラスすると、"Sick Of You" のサビ部分を右サイドが重ねる、といった具合。声の大きさで勝敗ジャッジが下されたりするから、会場も思わず大盛り上がり。この時のお客さんの一体感がハンパないのだ。素晴らしい盛り上げ上手! やるな、オヤジ!
「ガンバッテ、ニッポン! YOU CAN DO IT!」
ジョンがそう言ってくれた後に聴いた"The Guitar Man"、染みたなぁ。続く"Long Time"で自然に起こったお客さんの手拍子にもグッとさせられてしまった。ライヴ終盤、お客さんに向かって「あと一曲がいい? それとも二曲?」といたずらに訊いてモチロン二曲演ってくれたり、後ろ向きでTシャツ(きっとサイン入り)を客席に投げてくれたり、サービス満点のバンドの思いやりも嬉しかった。胸にトントンと手を当てて見せながらステージを去る彼らと、彼らのステージを用意してくれたフジロック、そして粋な盛り上がりを見せたフジロックのお客さん。その全てに、大いなる懐の深さを感じさせられた夜なのだった。
写真:古川喜隆
文章:小田葉子