誠実な歌に重なる赤裸裸なメッセージ
どんな環境下だとしても、自身のペースを崩すことがない斉藤和義。そしていつも変わらぬ誠実な歌を届けてくれる——。フジロック最終日。まず、ジプシー・アバロンでのアトミック・カフェにMANNISH BOYS(斉藤和義×中村達也)として出演(満員で入場規制がかかったという話も)。その約3時間後に、ホワイト・ステージに登場した。
このステージでも中村達也がドラムを務める。さらにギターとベースを加えた4人編成でスタート。1曲目は、この時期を象徴するような”Summer Days”。彼の歌にはあまり疑問がなく、言い切ることが多いからか、聴いていると気持ちがスッキリしていく。そして中盤の”幸福な朝食 退屈な夕食”では、歌詞を変えて「シワの足りない東京電力」という言葉を。
さらに”ずっと好きだった”から”ずっとウソだった”へ。YouTubeに公開されて話題となった、”ずっとウソだった”もご存知の通り反原発ソング。ここまで心の内側を出した赤裸裸なメッセージは、どこか潔くて気持ちよい。もしかすると、ここには被災しながらも、どうにか足を運んだ人がいるかもしれない。それに毎年フジロックを楽しみにしていた、被災地の方もたくさんいるはず……。そんな色んな想いが駆け巡り、今回の震災や原発のことについて改めて深く考えさせられてしまった。いや、もっともっと真剣に考えないといけないのだ。オーディエンスの中には、ボロボロと涙を零す人も多々見られ、その度に胸を締め付けられるようだった。
そして”歩いて帰ろう”の後、楽器隊メンバーが舞台裏に下がり、弾き語りで”歌うたいのバラッド”を。静けさを感じながらも、会場にいたみんながそっと声を出し合っていく。この流れにはとにかくグッとくるものがあった。きっと愛しい人と一緒に聴いている人もいれば、頭に思い浮かべていた人もいるに違いない。彼の声が発せられる度に、歌に惚れ惚れしてしまっていた。
この後はメンバーが戻ってきて、曲が始まるのだろう……そう予想していると、持ち時間を15分ほど残してさっと彼も舞台裏に。「あぁ、最後まで彼らしい終わり方だな」と納得しつつも、もう少し演奏してほしかったという気持ちも。ただ短時間でも、濃密なライヴだったことは確かだ。
文:松坂愛
写真:直田亨 (Supported by Nikon)