魔法をかけるかのようなステージを披露したデュオ
女性ヴォーカルMariam Wallentinと男性ドラマーAndreas Werliinによる異色の編成で話題なのがこちらのデュオ、Wildbirds & Peacedrums。 前日にはCONGOTRONICS vs ROCKERSとしての出演を果たして、大いに苗場を盛り上げてくれたわけだが、既にこちらの本隊でも幾度かの来日公演を経験している。そこから一気にフジロックへとジャンプアップし、苗場食堂を舞台にその特異なサウンドを繰り広げた。
前述したようなシンプルな2人編成だけど、単純に言葉で言い表すのは難しい。フリージャズ~ハードコアまで噛み砕いたような手数の多い変幻自在なドラムを下地にして、その上を女性ヴォーカリストのMariamが優しく、そして力強い歌声を乗せる。その2本柱が基本軸となっているのだが、そのストイックかつ複雑な中にも遊び心を入れたリズムと低く張りのある女性ヴォーカルが、また何とも言えない滋味深さと迫力を醸し出していて、思わず聴きいってしまうような吸引力を持っていた。その強さの中にもいい意味でのしなやかさ、そして時にホロリと涙を誘う様な叙情味、これも彼等の持ち味だ。
しかし、それだけではなくて軽やかな電子音が優雅に跳ねたり、スティールパンが華やかで厚みのある音が空間に振り撒かれ、さらにはタンバリンで煽ったり、足元のエフェクターを踏みながら太いベース音も鳴らしてリズム面に加勢。これらのパーツを精微に組み合わせながら、驚くようなグルーヴを作り出している。それでいて、間の活かし方も計算されていて、締める所はきっちりと引き締めながら、ゆるい弛緩部分も設けながら豊かな起伏を描く。一見、取っ付きにくく思われがちでも、自然と耳を傾けては体が揺れているのは、こうした感情の蠢きがしっかりと感じ取れるからだろう。
とはいえさすがにこの時間は、ケミカルなど各ステージのトリが勢揃いしている時間というのもあって、お客さんはそれほど集まってはなかったと思う。ただ、そんなのは関係なしに、このデュオによる特異なステージのインパクトは大きい。加熱していくアンサンブルは時に火花を散らすほどの激しさを見せたし、張りのある力強いMariamの歌声は僕等の心だけでなく苗場の夜空をも焦がすような魅力を振りまいていた。音数は少ないながらもここまでの豊かに表情づくサウンドは、まるで魔法のよう。演奏は規定の40分にも満たないうちに終わったけども、苗場食堂は完全に彼女たちの手のひらの中だった。
写真:Julen Esteban-Pretel
文:伊藤卓也