ST.VINCENT
美しきモンスターの武器はギター!?
女性アーティストと括らなくても、ここ最近のアーティストの中で最もエッジーかつ重層的なルーツを持つのが、ST.VINCENTことアニー・クラークではないだろうか。その彼女が4枚目にしてセルフタイトルのアルバムをリリース後にフジロックにやってくる、しかもステージはレッド・マーキーだと言うのだから、人が押し寄せるのも無理はない。デジタル・スクリーンにはアルバム・ジャケット同様のビジュアルが投影され、しかも、あの椅子状のものが実際の階段として設置されている。それ以外はドラムセット、ミニムーグ、キーボードがステージのすみのほうに配置されている。
そこにゴールドのコサージュが着いたドレッシーなベアトップにブラックレザーのミニスカート、シアーじゃないタイツにハイヒール、髪は編みこみで引っつめた上品なスタイル。直前に動画で「Live on Letterman」を見ることができたので、やはり今シーズンはこのスタイルで行くんだと納得したのだが、この日のライブが初見だったら、衣装から、ぜんまい仕掛けの人形もしくはバレリーナのような全身の神経を張り詰めたような動きにいちいち驚嘆の声を上げていたに違いない。でもやっぱり、ナマで見ると、サポートメンバーは存在するものの、アニーひとり、身体と身体の一部のようなエレクトリックギター1本で、オーディエンスに対峙する彼女の人間力(宇宙人ぽくもあるのだけど)に圧倒される。
シンプルなステージに彼女が立ち、ギターを肩にかけポーズを取るだけでオブジェのよう。オープニングはアルバム同様「アアアアアアアッアー」のリフレインが印象的な”Rattlesnake“。膨張・収縮を繰り返すようなシンセ以上に彼女が弾く、ロック、ファンク、フュージョンの垣根がブッ壊れたようなソロが独特過ぎて、また驚愕。ものすごく乱暴な言い方をするとビョークとプリンスの両面を持ち合わせているような音楽家と言ったらいいだろうか。
デジタリックなサウンドに、前述したファンクやジャズなどルーツミュージックのエッセンスも漂わせる新作からのナンバーが中心に進行していくのだが、優雅極まりない”Cruel”のオーケストレーションのシーケンスにうっとりしたり、完全にアニーの手中に感情を預けている感じだ。
また、ゴスペル的な神聖さの中にとろけるようなロマンも流し込んだ”Prince Johnny”での艶やかなアクションも美しい。チューニングすらバレリーナの振り付けみたいなのだから、1曲1曲は独立していても、彼女の動きがライブに流れを作っていく。そしてエレガントにギターチェンジしたあとは、物理的にはノイジー、でもフレーズはインテリジェントなイントロが印象的な”Digital Witness”で、うまく踊れないがとにかく身体を揺らす。それまでほとんど、誰も手さえ上げず、彼女の動きを凝視し、曲が終わるたびに割れんばかりの拍手が起こる状態だったところに、少しロック的なダイナミズムが加わり、クライマックスには、ステージを離れ機材ボックスに移りギターソロというか、もはやジミヘンとかプリンスぐらいしか喩えが思い浮かばない超絶イマジネーションの塊のような演奏を展開。ギターテクがどうこうというレベルじゃない衝撃なのだが、実は深い音楽的な知識とスキルを持つことが、リスナーの内部で古い価値観を
破壊し、新しい価値観を構築する裏付けになっている。
もうなんと言っていいやら、ピナ・バウシュのダンサーがギターを持ったような、しかしメロディは圧倒的にポップで刺激を求めるあらゆるミュージック・ラバーをとりこにするST.VINCENTという美しいモンスターは、演奏終了後、深々とおじぎをし、笑顔で手を振りレッド・マーキーを後にした。
posted on 2014.7.26 18:20
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