JAMES BLAKE
歌の力と深化の過程
前回のフジロック参戦は2012年。デビューアルバム『James Blake』と、その兄弟作と言ってもおかしくないEP『Enough Thunder』、その2枚を引っさげてのフジロック初ステージだった。あのとき、ジェイムス・ブレイクは極度の緊張感に包まれていたという。しかし、ステージが終わったあと、日本のオーディエンスの真摯に聞き入り反応を示してくれるその姿勢に、彼は感動し涙したという。そんなステージから4年の時を経て、今年グリーンステージに堂々の初登場である。
小雨が降る、夕暮れどきのグリーンステージ。ライヴの編成は、ジェイムスと、マルチプレイヤーの盟友エアヘッド、そしてパーカッションのベン・アシッター。デビュー当時からずっと変わらぬ、ライブでの編成である。しーんと静まり返るグリーンステージにジェイムスのキーボードのフレーズが流れる。“Life Round Here”だ。「あれ、いつもと違う?」そう、アレンジが少し変更になったのもあるが、これまでの経験値がそうさせるのだろうか、音の厚みが以前より数段増している。さらに演奏スタイルに関しても、元からすごいということは分かっていたものの、改めて見てもやっぱり超ハイレベルだ。彼らの演奏は、昔から相も変わらず、無闇に既存のサンプリングソースを使用しない人力エレクトロスタイル。すべての音は3人の楽器のひと押しひと振りから発せられ、サンプリングソースもその場で取った音を再利用する。これに似たスタイルを、今では色んなアーティストが当たり前のようにとっているが、大抵はどこかで効率化を求めるもので、ここまで徹底されたプレイスタイルをとれるアーティストは他にはいない。ライヴは、新作モードに突入していき、『The Colour In Anything』から数曲演奏する。このあたりから、彼の持つ歌の力強さが、より露わになっていく。ファイストのカヴァーで今やライヴの定番になっている“Limit To Your Love”、エレクトロなアレンジながらもベースに静かなエモーショナルな歌声がある“Lindisfarne”、ヴォーカルトーンのグラデーションが美しい“Love Me in Whatever Way”。そして、ラストの3曲、“Modern Soul”、“Retrograde”、“The Wilhelm Scream”の畳み掛けから溢れ出るエモーションは、このライヴに於ける、文字通りのクライマックスだった。アウトロのフェードアウト、そしてその余韻。今日のこのステージは、今まで見た彼のライヴのなかでも、間違いなく最高レベルのものだった。
2011年にアルバムデビューを果たし、2016年の今日に至るまで、彼は順調にアップデートを重ねてきた。ポスト・ダブステップの寵児と謳われれ、その名に遜色ないアウトプットだったファーストアルバム。彼が崇拝するジョニ・ミッチェルとの邂逅によりインスピレーションを得て言葉(歌詞)と音の可能性拡大に重きを置いたセカンドアルバム『Overgrown』。そして、外から違う血を受け入れることによる化学変化を自分の表現に変換し見事なアウトプットに仕上げたサードアルバム『The Colour In Anything』。彼は、今やビヨンセ、ボン・イヴェール、フランク・オーシャン、チャンス・ザ・ラッパー、ヴィンス・ステイプルス、(カニエ・ウェスト、ドレイクとは、リリースまでは至らなかったが、共演の話はあったらしい)…など、世界の名だたるアーティストたちから引く手数多な存在になった。がしかし、彼の本質である「言葉」に「歌」、それらに対する姿勢は、今も尚ブレていない。むしろ、さらに深く深く、進化を続けている。そのことが、今夜、4万人で埋め尽くされたグリーンステージでしっかり証明された。
【セットリスト】
Life Round Here
Choose Me
Timeless
Radio Silence
Limit to Your Love (Feist cover)
Lindisfarne I
Lindisfarne II
Love Me in Whatever Way
I Hope My Life
Voyeur
Klavierwerke
Modern Soul
Retrograde
The Wilhelm Scream