BO NINGEN
真摯すぎる一撃
グラストンベリーに出演し、プライマル・スクリームのUKツアーのサポートアクトを務め、サヴェージズとのUK/ERツアーを敢行。またアレキサンダー・マックイーンのAW16のキャンペーンに楽曲、モデルで起用されるバンドという情報だけでは、どこかスノビッシュかつスタイリッシュなバンド像しか思い浮かばないかもしれない。かくも情報とは恐ろしいもんである。
3年ぶり2度目のフジロック出演となった今回は、最終日のホワイトステージのオープナーという役割。数時間後に登場する人気アーティストのファンがすでに前方にいるという状況がBO NINGENのライブでどうひっくり返るのか?彼らはフェスの楽しみ方を体感することになるのだろうなと思いながら開演を待つ。
真昼の日差しがステージ前方にも容赦なく照りつけ始めた時間程に巫女のような長髪のフロント3人と仙人のようなドラマー、Monchan Monnaが現れる。Taigen Kawabe(Vo/Bs)は「こんな早い時間から集まってくれてありがとうございます。BO NINGENです!」との第一声。その佇まいとのギャップに驚いた人を轟音が飲み込んでいく。Taigenの素直なボーカルとシャウトを織り交ぜた歌の表現が轟音に飲み込まれずにまっすぐ届く。人間というか生き物としての解像度の高さに圧倒されるのだ。
3曲目の”Henkan”あたりからモッシュ&ダイヴするクラウドが巻き起こす砂埃は砂嵐レベルの凄まじさになって、スモークと見まごう大きさになってステージをも襲う。必死の形相で歌い続け、しかもコンテンポラリーダンサーのようにベースを抱えながら動くTaigen。エフェクティヴなギターで白昼夢的なサイケデリアを奏でるYuki Tsuji(Gt)、ソリッドなリフを放つKohhei Matsuda(Gt)。
「暑すぎてよくわからないけど、みんなの顔は見えます」と、まっすぐにクラウドを見据えるTaigen。6月にリリースされた新作のタイトルチューンでもある新曲”Kizetsu No Uta”を披露することを告げる。グッとタイトでポストパンク的なビート、ハードボイルドなガレージサウンドと呼んでもおかしくないソリッドなナンバーだ。そこに乗る、Taigenのトーキング風のボーカルが若き放浪の詩人のようで耳をそばだてるのだが、ポツポツしか言葉が聞き取れない。ただリリカルなだけじゃなさそうなのは確かだ。
そして自らを”サイケデリック見世物小屋”と称して、BO NINGENの世界に真夏の野外をどこか知らない場所にワープさせる。モッシュがさらに激しくなったのは”Koroshitai Kimochi”。祝祭的なだけがフェスではないし、こうして人間の内面をさらけ出させて、自然と人を熱狂させるのもまたフェスの醍醐味だと思う。後先なんか考えずに自分の限界まで暴れる前方のオーディエンスはステージといい勝負だ。
一転”Natsu No Nioi”では日本の夏、目に見えない魂が帰ってくる、その季節感が立ち上がるような深遠な演奏。ロンドンを拠点に活動する彼らだが帰国し、しかもフジロックのステージに立つことはこの上ない幸せのようだ。Taigenはまっすぐに感謝の言葉を口にしていた。
「うちら雨男なのに大快晴!」とまさに今この状態を叫ぶ”Daikaisei!がラストにセットされた。歌に注目してしまいがちだがtaigenは呪術的なループをずっと指弾きのベースで作り出している。ステージを飛び降り、ベースを頭上に掲げながらもそのループは止まらない。それが彼の表現と戦いのスタイルであると言わんばかりに。
カオスが頂点に達して、いよいよベースを置きステージを縦横に疾駆するTaigen、ギターをぶん回し、シールドを抜き腕に巻きつけるYuki。まるで血管のようだ。クラウトロックの反復とストゥージズばりのカオスが渾然一体となって、生身のバンドサウンドが作るトランスに巻き込まれたホワイトステージ。”Natsu no Nioi”の歌詞の通り「先は見えないけど、止まらなければいつか進む」というシンプルなメッセージが軸にあるからこそ、彼らのアクトは奇妙なものには見えない。全くもって真摯すぎる一撃だった。
セットリスト
DADADA
Slider
Henkan
Kizetsu No Uta
Psychedelic Misemono Goya
Koroshitai Kimochi
Natsu No Nioi
Daikaisei