最近のケニー（横山健）はよく語る。地上波のテレビ出演、東京スカパラダイスオーケストラの歌モノコラボ参加の経緯、今回初めて福岡で開催する「Air Jam」のことなどなど。ライブの現場はもちろん、自身のコラム「横山健の別に危なくないコラム」でも饒舌なほど、更新されるたびに長文で活動の意図を綴っている。だがここはフジロックだ。10年前ならいざ知らず横山健が何者なのか知らない参加者も数多くいるだろう。演奏はもちろん、ケニーが何を語るのか。実はそれが一番気になっていた。

ピザ・オヴ・デスのサイトと同じミミズがはったような字で書かれた小さな「Ken Band TM」のフラッグ（？）が大きな背景で心もとなく揺れる中、登場した４人。ケニーはピカピカ輝くグリーンのグレッチを手にしている。いきなり”Maybe Maybe”でスタートしたもののアンプにトラブルが発生し、Jun Gray（Bs）のスラップで凌いでファンの歓声を浴びている。そんな間を吹き飛ばして余りある”Stay Gold”早々のプレイ、そしてカバーでおなじみの”Can’t Take My Eyes Of You”と最前のモッシュピットはサークルやらダイブ続出の模様だ。

最近、日の丸を肩にかけて演奏することも多い彼はこの日も日の丸を背負って
歌い、ギターを弾いている。ただ、そのことには触れずにひたすら長年のファンがブチ上がる曲を連投。グレッチなどいわゆるハコモノギターに興味を持ってからの明らかに歌メロに変化をもたらした目下の新作の中から象徴的な”I Won’t Turn Off My Radio ”、”Punk Rock Dream”とロックンロールの匂いのする曲が続く。

８曲演奏したところで長いMC。「ありがとうフジロック。今年で20周年なんですって？来年やると思う？150組とか出てる中の一つなんだけど。美味しいものは食べましたか？キャンプサイトの人はいいセックスはできましたか？」とまずは軽くジャブ。そこから一気にメッセージに火がついた。「呆然と見てる人や移動してる人を見ると大人しくやらんきゃと思うけど、前の方見てるとふざけちゃうよね。なんとなくフェス来たんならラジカセ持ってピクニックにでも行けばいいんだよ。今回胸くそ悪くてさ。SEALDsが出るからフェスで政治の話すんなとかツイッターで見かけたけど、俺はSEALDsの活動がどうとかじゃなくて、若い奴がそうやって立上らざるをえなくなったんだろ？いいんだよ、俺にとっては政治もち○こもバンドもR&Rも同じだと思うんですよね。今日はこれが言いたくてここに来ました」

大歓声の一方でポカーンとしている人もいる。むしろ鬱陶しそうにしてる人もいる。だがこの発言からの「震災後のパンクスの歌です」と演奏を始めた”Ricky Punks III”で、涙腺決壊。別に強くもなんともない一人ひとりが何のしがらみもなく自分の名前で生きていく、そんなイメージが先の発言と混ざる。ファン以外にとってはどうでもいいことなのかもしれない。でも誰が自分の意見を語るのか。どうせ叩かれるんなら今回は俺が叩かれとくわ、そんな感じがこの人の最近のスタンスだ。

そして客席にマイクを投げ込み、マイクをつかんだいかにもハードコアな青年に”Let The Beat Carry On”ので出しを歌わせる。ステージの上も下もない。再びケニーが語り始める。日の丸のことだ。「ここで日の丸背負ってるけどレイシストじゃない。外国の人がいたら旗を振ってくれ」というとブラジル国旗が揺れる。
「いいね。俺は北朝鮮も韓国も中国もアメリカも国としては嫌いだ。そこに住んでる人は大好きだ。つまり政府なんてどの国もクソなんだ。オリンピックで無邪気に自分の国の旗振るだろ？そういう気持ちなんだよ」

そして「こういうことを言えるフジロックに感謝してるし、こういう場所を守って行こう！」。そうなのだ。与えられっぱなしじゃいつか楽しいフェスという場所もなくならないとは限らない。

再びモッシュピットのマイクを投げ入れ「俺たちが演奏するから好きに歌ってくれ」と”Believer”をマイクを奪い合って皆が歌う。でもまたマイクは行方不明に…。能天気なわけじゃなく、それでもビリーバーでいよう。そんな思いが伝わる。ここで終了のはずがもう１曲演奏可能な時間があるということで、ハッピーにスカのビートで”Pressure Drop”でダンスを巻き起こし「またいつかこの場所で会いましょう」と言い残し、バンドはグリーンステージを後にしたのだった。

セットリスト

Maybe Maybe
Save Us
I Don’t Care
Stay Gold
Can’t Take my eyes off you
Walk
I Won’t Turn Off My Radio
Punk Rock Dream
Ricky Punks III
Let The Beat Carry On
This is Your Land
Believer
Pressure Drop