D.A.N.
更新と普遍性。20年目を示唆したアクト
昨年のルーキーからメインゲートを潜り抜け、レッドマーキーのPLANET GROOVEの口火を切る大役を任せられたD.A.N.。シガーロス終わり、もしくは夜食を求めてオアシスに流れてきた人ばかりではない。ライブスタートの23:30以前から大勢のオーディエンスが黙して待っている。静かな期待感なのかまだまだ1日を終われないからか。
そして定刻に暗転すると思いの外、意欲満々な姿勢でステージに登場した桜木大悟(Gt,Vo,Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)、そしてサポートの小林うてな(Syn)。「D.A.N.です。よろしく!」という挨拶とともにブルーのバックライトにメンバーのシルエットが浮かび、桜木と小林のどこかケチャ風のボーカリゼーションから”Zidane”が躍動し始める。ベースの市川が想像以上にアクティヴだ。「想像以上」とか「思いの外」とか、どれだけ彼らに勝手なイメージを抱き続けていたのだろう。間奏で男性の歓声が上がるという歓待っぷりも自由な反応で、オーディエンスもお互いに影響し合いながらフロアのベクトルが変質していくのが分かる。”Ghana”からは背景のビジョンに映像も投影され、メンバーの動きをデフォルメした80s風のアニメーションがヴィヴィッドだ。揺れ始めたフロアに向けて、桜木が手を振りさらに煽る。
ベースミュージック的で無国籍感漂う2曲に続き、さらに洗練の極みを見せた”Native Dancer”。桜木はファルセット以外にも力強いと言っていいほどのロングトーンで文字通り歌声の力を示していたし、バンドの屋台骨である市川のファンクやソウルから脂っ気を抜いてツボだけ残したようなフレーズも然り、川上のジャズからハウスまで、これまたツボを抽出したドラミングも絶妙としか言いようがない。
最近のライブから披露し始めたらしい”SSWB”はフィジカルにクるローと脳内を駆け巡るスティールパンのサンプルやシンセといった浮遊物が同時にやってくる。つまり第六感まで震わされているような印象なのだ。また、真夏の白昼夢めいたメロウネスを湛える”Time Machine”もグッと肉体性を増し、桜木が地声で熱唱と言っていいほどのロングトーンを歌いきった時、声という代替不可能な存在の強さにも純粋に射抜かれた。
さらにベースのサウンドが最高に美味しい”Curtain”を聴きながら、早くも「来年はホワイトに出て欲しい、てか、出よう!」と心の中で叫んでしまった。ずっとメンバーはバックライトか映像の明るさに浮かび上がるベクトルのライティングが続いたが、ラスト1曲の前にステージが照らされ、晴れ晴れとした表情で桜木が感謝を述べ、これまた川上のキック&スネアを軸に永遠に踊れそうな”Pool”が披露される。多くのオーディエンスがこの桜木個人のイマジネーションに富むメロディラインをすぐ咀嚼して踊っている。ビートや圧だけじゃない。メロディにも揺れている。
抑制の利いたアンサンブルのままナマの人間のリアリティを強くすること。矛盾するようでこの日のD.A.N.はそれを実現してしまった。享楽のダンスではなく、自分の脳内にダイヴして見つけた負とか正とかを超えた気づき。悲しいけれど自分の本心に触れるとか、一人ひとりの集合としてのクラウドがひとりのままで互いに共振するとか、そうした種類の感銘に溢れていたのだ。
メンバーが思うベクトルでの盛り上がりが実感できたのだろう。やりきった表情でステージを去ったD.A.N.。フジロックで新たなファンを獲得して噂は瞬く間に広がるだろう。
セットリスト
Zidane
Ghana
Native Dancer
Dive
SSWB
Time Machine
Curtain
Pool