楽しいぃ! 帰りたくないよぉ。
カラリと晴れ渡ったことなんてほとんどなかった今年のフジロック。時にはずぶ濡れになった人もいただろうし、足下はいつもどろどろだったように思う。雨に濡れた身体は、それだけでも体力を消耗するし、地面が濡れていると腰をおろす場所も少なくて、けっこう憂鬱な気分になるはずなんだが、それでも苗場は、にこにこ、にやにやしながら歩く人で溢れていなかっただろうか。
最終日の日曜日、新しくブルー・ギャラクシーと名付けられた、かつてのワールド・レストラン・エリアに設置された、DJブース、ジムズ・ヴァイナル・ナジウムの発展系、ジム&サラームで、ゲストDJとしてお茶を濁した時のこと。目の前で満面に笑みを浮かべてノリノリで踊り続けていた外国人の女性三人組にちょっと声をかけてみた。
「どこから来たの?」と尋ねると「横浜なんだけど… 帰りたくな~い」と返ってくる。その言葉で充分だった。
始まる前にはいろんな声が届いていた。フジロック愛を語る人たちがいっぱいいる一方で、そんな人たちからでさえ耳に入ってきたのは不平や不満の数々。ずっと昔から通い続けている人たちには当然のエリアだったワールド・レストランから、その顔と言ってもいいだろう、アフリカン・レストラン、クイーン・シバが消えてしまったことが大きかったようだ。そこがどう変化していくのかという不安もあったようだし、ラインナップに不満を訴える人も少なくはなかった。が、それはそれで当然だろう。なにせ、好きな音楽は十人十色。全ての人をまんべんなく満足させるものなんて不可能だ。
それでも会場で彼らと顔を合わせると、実に幸せそうな表情で語りかけてくる。
「いやぁ~、楽しい! それにつきますね。いろいろ文句もあったけど、来てみると、楽しくてたまらんです」
そんな声はここそこで耳に入ってきたし、実は、同じような声がこのフジロック・エキスプレスで働くスタッフからも届いていた。タイトなスケジュールを組んで、ライヴ撮影はもちろん、会場のそこかしこで様々な人や出来事を記録し発信し続けるのが彼ら。時にはびしょ濡れで重たい撮影機材を抱えて走り回る。へとへとになりながら、本部テントで数十人が更新作業となるのだが、コンピュータをタイプする音しか聞こえてこない奇妙な沈黙が支配することもあった。そんなとき目に入ったのは、スタッフ用連絡ボードに誰かが書いた「楽しい~」という一言。そう、彼らもこのハードな作業を楽しんでいるのだ。
昨年20回目の節目を迎え、新しいチャプターに入った? いや、そんなことは無関係。これまでもそうだったように、これからも紆余曲折しながら、変化していく。それだけのこと。ずっと同じままでいられるはずもなく、新陳代謝を繰り返しながら、回数を重ねるごとに「祭り」の文化が根を張っていく。その根っこの周りには、これまでここにやって来た無数の人がまいた種が育って、芽が顔を出している。おそらく、それがこの「楽しい~」を生み出しているんだろう。
ありがとう。これまでここに来てくれた人たち。いつも前夜祭のレッド・マーキーでみなさんの弾けんばかりの笑顔を記録するためにステージに立つときに心の底から思います。無数に広がるその笑顔が宝物なんだと。そして、最後の最後、グリーン・ステージでの演奏が終わった後にカメラに刻み込まれる笑顔の数々も。おそらく、年に一度の「楽しい~」を約束してくれるのがフジロックなんでしょうね。
もちろん、いいことずくめではなく、嫌なこともあった。最後のバンドが演奏を終えて、人がいなくなったグリーン・ステージ前にゴミひとつ落ちていなかった99年、苗場で最初のフジロックの奇跡は遠い昔のこと。最終日に徹夜で更新を続け、撤収作業に入るとき否応なしに目に入ってくるのがゴミに埋もれているオアシス・エリア。もちろん、ボランティアがそんなゴミを回収してくれるんだけど、それでいいの? 誰かがどこかで少し動くだけでなにかが変わるという、そんな気持ちを共有することも「祭り」を支えるなにかじゃなかっただろうか。
また、ところ天国前の河原を中心に姿を見せているゴンちゃんのことも書き残しておかなければいけない。「日曜日の夕方まではそっとして」というメッセージをきちっと守っている子供が涙目で「連れて行かないで」と訴える姿をどう受けとったらいいの? これまで何度もお伝えしてきたように、あれはロバート・ゴードン・マクハーグ三世が生み出した作品で、単純な「飾り」ではなく、どれもが意図された場所に意図された方向で展示されている、彼のニックネームを与えられた分身。ところが、その多くが最終日を待つまでもなく盗まれ、誘拐されているのです。それは作品のみならず、彼の「想い」を壊すことでもあるとは思いませんか?
「でも、そんな子供たちの言葉や気持ちがなにか前向きなものを生み出しているから… いい変化が起きていると思うんだ」
と、語ってくれたのがゴードン本人。来年こそは、最後まで多くの人たちが彼の作品を楽しめる場にしてくれれば嬉しいなぁ… と、そんな期待を込めて、今年の〆としようかね。また来年、みなさんの笑顔と再会できることを楽しみにしています。
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さて、fujirockers.orgで1年中、フジロックの魅力を伝えながら、今年のエキスプレスの準備をして、開催前から苗場の現場に入って様々なレポートを続けてくれたのは以下の人たち。まだまだいたらないところはあるかもしれないけど、彼らが刻み撮った記録はかけがえのないものだと思います。ありがとう。
■日本語版(http://fujirockexpress.net/17/)
写真家:森リョータ、古川喜隆、平川啓子、北村勇祐、MITCH IKEDA、MASAHIRO SAITO、粂井健太、アリモトシンヤ、安江正実、志賀崇伸、岡部智子、木場ヨシヒト、結城さやか、Yumiya Saiki、馬場雄介、小西泰央、森空
ライター:丸山亮平、阿部光平、イケダノブユキ、松村大介 、田畑 “10” 猛、石角友香、あたそ、若林修平、梶原綾乃、近藤英梨子、東いずみ、Natalia Emi “Paula” Hirai 、永田夏来、本人(@biftech)、三浦孝文 、山本希海、西野タイキ
■英語版(http://fujirockexpress.net/17e/)
Laura Cooper, James Mallion, Patrick St. Michel, Sean Scanlan, David Frazier, Park Baker, Matt Evans
フジロッカーズ・ラウンジ:飯森美歌、湯澤厚士、関根教史、小幡朋子、藤原大和
ウェブデザイン・プログラム開発:宮崎萌香、平沼寛生、坂上大介
ウェブサイト更新:宮崎萌香、平沼寛生、酒田富紗葉、坂上大介
プロデューサー:花房浩一
スペシャルサンクス:Masami Munekawa、藤井大輔、JulenPhoto、白井絢香、高木悠允、稲垣謙一、前田博史、熊沢泉、名塚麻貴、イシハラマイ、本堂清佳、三ツ石哲也