レベル・ミュージック日本代表〜苗場からうたは自由を目指す〜
日本が様々な意味で「大打撃」を受けたこの年に、ソウル・フラワー・ユニオン(以下、SFU)がフジロックに出演することは、大きな意味がある。『純国産のレベル・ミュージック』であるからに他ならない。そのことを象徴するかのように、ステージの前では、ジョー・ストラマーとキヨシローの姿が描かれた旗が振られていた。
サウンドチェックの段階で、すでにライヴは始まっていた。中川敬から「リハーサル、終わり!」の言葉が発せられ、流れ出したのは”男はつらいよ”のテーマ。『フェスティヴァル』という空間を「まずは楽しもう」という気持ちがあったのだろう。「本編」は和やかな雰囲気で始まった。
曲が踊り、歌詞が拳を突き上げ、SFUの真摯なメッセージが苗場の地で広がっていく。世界にはびこる矛盾に対して、常に「声」をあげているからこそ、SFUの歌は、どんな時にも心の「真ん中」に突き刺さってくる。いつもならば、中川敬によるMCが挟み込まれ、関西人らしいネタをちりばめながら笑いをとりつつ社会に対してチクリとやるのだが、今回はそれが無かった。だが、MCとして語らずとも、祭り囃子のような賑やかさの中より、一歩抜け出てくる「声」は、元より歌詞の中に綴られている。中川の声色で彩られれば、それはそのまま何より強い力となって響いてくる。
SFUは賑やかさだけではなく、涙腺を刺激する一面も持っている。中川敬の声は、”荒れ地にて”で力強く響き、”満月の夕”ではさめざめとこちらの心を濡らす。SFUそのものは、沖縄の米軍基地問題に関してかねてより声をあげていたし、中川敬は、今年の大震災以降、別ユニットで東北を回っていたと聞く。それらの活動で見聞きしたことを、誰にでもわかる簡単な言葉にまとめて、物事を見つめなおすきっかけを与えてくれたのだ。
最後に用意されていたのは、”うたは自由をめざす”。ここで叫ばれるのは、日本各地の『発火点』だ。「辺野古」、「高江」、「祝島」、「玄海」、「東北」、「福島」、「三陸」…そして、「苗場」からうたは自由をめざす、のだ。『現場』の人、そしてフジロックに集まった人、それぞれの魂が奏でる「歌」の力を、SFUは信じ、声をあげているのだ。
オーディエンスから沸き起こる「うたは自由をめざす!」の声は、SFUのメンバーがステージ上から消えてもなお大きく放たれていた。それは等身大の、シンプルな言葉。歌そのものの歌詞はわからずとも、たとえ一部のフレーズだけであったとしても、何故そう歌ったのか。ひとりひとりが、SFUのライヴを思い返すことで、未来が大きく変わってくるのではないだろうか。
文:西野太生輝
写真:岡村直昭