フジロックの「良心部門」に新規参入
雨に濡れたボードウォークを奥へ進んでいくと、木立の向こうから軽やかな鍵盤の音が聞こえてきた。そこに重なるフィドル。くーっ、いいな、この感じ。苗場で聞く弦の音色はなぜこんなにキュンとするんだろう……というわけで、雨が上がり、うすくもやのかかったフィールド・オブ・ヘブンに登場したのは、ロンドンからやって来たフォークバンド、NOAH AND THE WHALE。
三つ揃いを着てステージに立つ5人は、「スーツ男子」というより「背広男子」と呼びたくなるような風貌。赤いポケットチーフにライトグレーのベスト、ゆるーいリーゼントが微笑ましい。生地もキリッとした黒じゃなくて、微妙にくすんだグレーだしね。どこかの田舎の青年団みたいだわ。ちなみに、ギター&キーボードのフレッドは、PULPのジャーヴィス・コッカーに激似です。
ヴォーカル&ギターのチャーリーが頬を上気させながら、「日本で演奏するのは初めて。とても光栄だし、すごく興奮してるよ」とお客さんに語りかける。フィドル&キーボードのトム、ベースのアービィ、ドラムのマイケルも終始ニコニコして、とっても楽しそう。器用に楽器をスイッチしながらコーラスを響かせ、緑に囲まれたヘブンの空気を作り上げていく。このあたり、ウェールズのグリーンマン・フェスティバルの常連である彼らの得意とするところなのかも。
集まったお客さんたちは、決して熱狂的というわけではないけれど、ステージ前に立つ人も、後方でイスに座っている人も、NOAH AND THE WHALEの音楽にじっくりと耳を傾けている。「Tonight’s The Kind Of Night」、「Give It All Back」、「Life Is Life」など日本でも人気の曲が並び、1曲終わるたびに、丁寧な拍手が送られる。その拍手がなんとも温かくて、お客さんの心がこもっているのがよーくわかるのだ。フィールド・オブ・ヘブンにはこういうやさしい光景が本当に似合う。
途中から雨が降り出し、次第に雨脚が強くなった。しかし、レインスーツに身を包んだお客さんたちはひるむことなく、「5 Years Time」のイントロで口笛が始まると一斉にジャンプ! 声をそろえて「Sun! Sun! Sun!」「Fun! Fun! Fun!」と歌いながらさらにジャンプ!! これにはメンバーも「きみたちはなんてやさしいんだ! こんなにステキな場所で演奏したことはないよ。こんな雨の中、僕たちのステージを見に来てくれてありがとう」と大感激の様子だった。
NOAH AND THE WHALEとフジロッカーズの友好関係は始まったばかり。去り際に「See you soon !」と言っていたけど、その言葉が早く現実になるといいね!
写真:Julen Esteban-Pretel
文:堀内里美