あなたとわたしの愛の歌
サハラ砂漠に接するマリ共和国の首都・バマコの年間降水量は約900ミリだそうです。7月29日に新潟県を襲った豪雨は降り始めからの降水量が400ミリを超え、バマコの年間降水量の半分近くが1日で降りました。苗場はそこまでの雨量にはなりませんでしたが、雨のフィールド・オブ・ヘブンで、遥か砂漠の国・マリからやって来た盲目の夫婦が歌った愛は最高にロマンチックでした。
バマコの音楽学校で出会ったアマドゥとマリアムは、1980年代前半に結婚。ふたりでマリのブルースを歌いはじめ、2004年のアルバム『Dimanche a Bamako』ではマヌ・チャオが参加・プロデュースをして世界的にブレイクしました。今回はそのマヌ・チャオも同日に出演しており、飛び入り共演の期待も高まります!!
雨が少し落ち着き、日が暮れたヘブンは満員に近く、ベース、ドラム、パーカッション、キーボード、ダンサー兼コーラス×2、DJ(MO DJ)の大所帯がステージ上で待機します。そして満を持して盲目の吟遊詩人夫婦がスタッフに手を引かれ登場すると…、「うぉー!!!」と大歓声が迎えます。観客の多くはふたりの目が見えないことを認識していたのでしょう、「声」で反応しようと叫んでいる気持ちがビンビン伝わってきます!
アマドゥはギターを弾きながら、マリアムはご主人に寄り添い、時には肩に手を回して頭をなでなでしながら、2009年のアルバム『Welcome to Mali』の曲を中心に歌いました。ポップでキラキラした音作りは「アフリカの音楽」と聞いてイメージする「土臭さ」を感じさせず、美人ダンサーズのアフロ・ズンドコ踊り(ドリフ的なアレ)は思わずマネしたくなり、自然と笑顔がこぼれます。ライブ終盤に雨が強くなり、バマコでは耳にできないだろうレベルの雨音と、それに負けじと大きくなった歓声に見送られながら、再びスタッフに手を引かれてふたりは退場していきました。
ふたりの歌はまるで、呼びかけ合っているかのように聴こえます。出会う前に光を無くした夫婦は、お互いの顔を見たことが無いと思われます。隣にいるけれど、見ることのできない「あなた」の事を思いながら歌うことで、存在を確認しあっているのではないでしょうか?中盤で演奏された名曲”Je pense a toi(フランス語/訳:あなたの事を思っています)”や、演奏はされませんでしたが”I Follow You”で「I stand by you~」と歌われるとおりに…。
結局マヌ・チャオは登場しませんでしたが、そんな最高にロマンチックなふたりのステージにおじゃまするのは「野暮」ってもんでしたね!「アニチェ!(バンバラ語/訳:ありがとう!)」
写真:Julen Esteban-Pretel
文:伊部勝俊