けたたましいライヴを繰り広げた「苗場の常連」
コミュニティ・ミュージック(UK。ストリートにたむろす若者に対し、音楽を教える民間団体)との密接な関係からスタートした、エイジアン・ダブ・ファウンデーション(以下、ADF)。インド、バングラデシュ系の移民を中心としたメンバーによって結成され、パンクやヒップホップなど様々なエキスを盛り込み、ターメリックやガラムマサラといった香辛料をドバドバ振りかけたような、唯一無二の音世界は、メンバーが様変わりしても揺るぐことはない。根幹に流れるものが、デビュー当時と変わっていないからだ。音はもちろん、精神としてのレベル(反逆)を携え、突っ走ってきたADFの勢いは、まだまだ健在。むしろ、深化を続け、より攻撃的になってきていると言っても良いかもしれない。
今回は、『パンカラ』以降に固まったメンバーでの来日だ。ラジプットがドール(両面に皮を張った樽状の太鼓)を抱えて、前のスペースに出てくれば、大騒ぎ確定。ターンテーブルから送り出されるトラックに、エキゾチックな打撃が乗り、一気にこちらへと押し寄せてくる。
チャンドラソニックは鋭いギターの音色で攻め、アクターベイターとキング・プラウンから加入したアル・ラムジェンの2MCが、歌にラップにと縦横無尽に駆け巡る。
“バーニング・フェンス”でけたたましくぶち上がり、”フライオーヴァー”ではコール&レスポンスを発生させる。フジロック最多出場は伊達じゃなく、苗場を「ロック」する感覚は、他のどのアーティストよりも熟知しているのだ。
チャンドラソニックは、ステージ前で振り回されていた旗に書かれていた、『原子力エネルギーからのシフトを!』のメッセージをそのままステージ上から叫び、オーディエンスに考えるきっかけを与えていた。
アンコールで炸裂したのは、”フォートレス・ヨーロッパ”。危機が迫っているかのような、不穏で性急なストリングスが鳴り響き、エフェクトが女の叫び声となって流れ込んでくる。「Keep bangin’ on the wall」のMCはうめくように響き、中盤のブレイクで再び力を溜め込んで、さらなる攻撃へ。
この曲を待っていた人も多かったようだ。ホワイト・ステージは巨大な野外ダンスフロアへと変貌し、かっとばしたBPMに合わせて、とあるオーディエンスの一人はピョンピョンと飛びはね、一方では狂ったように踊る状態となっていた。
ステージ上のADFも、慣れたフジロックのステージを終え、満足げな表情だった。何より、震災以来、初めての来日だ。困難な状況にある日本でのライヴ、そして言葉の発信を熱望していたに違いない。ADFは、音楽が世界を変えるきっかけとなることを知っている。そんな意思が溢れ出たライヴだった。
文・西野太生輝
写真:深野輝美 (Supported by Nikon)