いつまでも続けと思う、幸福なひととき
「じゃ、ちょっと待ってて下さい。」
フジロック三日目の午後。本番前のサウンドチェックに”Vista”を少し演奏して、そう言って舞台裏に戻って行ったのはトクマルシューゴ。トクマルシューゴとしてだけでなく、ギタリストを務めるバンドGELLERSとしても、フジロックにはたびたび出演してくれている彼。今年はSAKE ROCKのベーシストである田中も加わったバックバンド「マジックバンド」とともに、ホワイトステージに登場してくれた。
ライヴは”Platform”~”Tracking Elevator”の流れで軽やかに幕を開ける。ホワイトステージ周辺はカラフルなレインウェアに身を包んだお客さんで一杯。ステージ上から下がる巨大スクリーンに映し出されるトクマルの表情は晴れやかで、時おりちょっと嬉しそうだ。
ドラムにパーカッション、ピアニカやトイピアノ、そしてウクレレ。書ききれないほどの様々な音が複雑に混ざり合い、聴覚を通じて不思議な空間が発生するかのような彼のライヴ。”Green Rain”のイントロで軽く失敗して苦笑いしながら演奏する姿も、それを見て和やかに盛り上がるお客さんも、とにかく楽しげ。
その後”Mushina”から自然に”The Mop”へと繋げてエレクトリカルパレードなアレンジのギターソロで鮮やかな手さばきを見せてくれたり、ウクレレに持ち替えてバグルスの”Video Killed The Radio Star(ラジオスターの悲劇)”をカバーしてみせたり、ソロで”Button”を演奏したり、と変幻自在。
「12年くらい前に初めて苗場でフジロックが行われた時に、僕もいたんですけど、イースタンユースとか出てたり(この日同じくホワイトステージに出演予定)、最高だったんですけど……。その後何回も何回も足を運ぶようになって、気付いたんです。フジロックは、最高なんです。」
そう語ったのはいいものの、照れがあるのかすぐに「天気にも恵まれて。」と付け加えてしまうトクマル(雨です!)。それでも、ずいぶんMCでストレートにメッセージを伝えるようになったなぁと感じる。楽器の一部のような役割を果たしていた彼の歌声も、今日はとても力強い。
ライヴ後半、メンバー紹介も挟みつつ”Parachute”や”Rum Hee”、再びウクレレに持ち替えての”Malerina”が演奏される頃には、降り続いていた雨が止み始めていた。雲間から太陽の光が差しこんで、会場周辺がぱあっと明るく変化したように感じる。でも、それだけではないのかも知れない。ステージの上の開かれた演奏が、きっとそう感じさせてくれたのだ。
写真:熊沢泉 (Supported by Nikon)
文:小田葉子