キャバレーの中のシャンソン
赤を基調に壁に張り巡らされた布、床の木材の匂い、手作り感あふれるシャンデリア…パリのキャバレーをイメージしているというカフェドパリのテントに一歩踏み込むとモワッとした空気とともに外の緑とは別の世界が飛び込んできた。スマッシュの大将こと日高正博が加藤登紀子に会ったとき、このカフェドパリという場所でシャンソンを歌いませんか?と話したという。
15分前には会場いっぱいに人があふれていて場所を確保するのがやっとだった。時間ぴったりに照明が落ちるとピアノとベースのバックバンドメンバーが登場し、その2人が音を鳴らし始めるとステージ袖から黒い花柄の衣装を着た加藤登紀子が登場した。”百万本のバラ”からゆったりと歌が始まると会場は拍手につつまれた。
1日目はカフェドパリ、2日目はアバロン(アトミックカフェ)、3日目はヘブンでの演奏を予定している加藤登紀子だが、この日はステージより数十センチ下がったフロアで座っているお客さんに目線を合わせるためにしゃがんで歌ったり、お客さんの顔が見えるようにとフロアの照明を上げてもらえるように頼んだりと、カフェドパリというステージの狭さを存分に生かしながら曲を進めていく。紅の豚でおなじみの”さくらんぼの実る頃”は、テント内の雰囲気のおかげでマダム・ジーナの店にいるかのような気分をあじわえた。
「今日のテーマは何か知ってる?革命がテーマです。」と言いながら、過去に起きた戦争や歴史の話を語る。その話が歌に深みを持たせるので”imagine”で涙を流す人が多数いたのも自然な流れのように思える。しっとりとした曲もありつつ、最後は手拍子を交えて和やかに締めくくられた。「明日はアトミックカフェで会いましょう。楽しんでくださいフジロック」そう言って彼女はステージをあとにした。明日、あさってとそれぞれ規模の違うステージでどんな演奏を聞かせてくれるか楽しみである。
加藤登紀子
写真:古川喜隆 文:名塚麻貴