GREEN STAGE, | 2012/07/28 22:55 UP

クガツハズカム

緊張感の中をたゆたう中性的で毅然とした歌

きのこ帝国というバンドを知っているだろうか。08年より本格的に活動を開始し、5月にデビューアルバム『渦になる』をリリースした若手バンドである。このバンドがまた良く――轟音で鳴らされる音の中で、歪みや苦しさを吐き出しながら、優しさや生きる力などの陽の感情も見出していくのだけど、聴くとわかると思うがもう死ぬか生きるかしか表現していないのだ。ものすごく潔いバンドである。

で、ここからが本題。タイムテーブルをチェックしていた時に知ったのだが、2日目の木道亭に出演するクガツハズカム、実はきのこ帝国のヴォーカル・佐藤のソロ・プロジェクトだというのだ。これは観に行かねば…と、真っ先に優先順位の上位に入り、もう気持ちは駆け足状態で、ステージ場へと向かった。

木道亭に到着すると、ちょうど佐藤がアコギを抱えて登場。楽曲はバンドとはまた違うのだろう、と思っていたのだが、まずはきのこ帝国でもおなじみである“The SEA”から。ちょっと驚いたのは、佐藤たったひとりだとしても、あの触れると緊張の糸が切れてしまうような、静寂な空気は変わらなかったということ。絶対ブレないと言わんとばかりに、真っ直ぐただ一方を見つめ、中性的で毅然とした歌を聴かせてくれるのだ。しかも、文字面だけ見ると狂気とも思える歌詞だとしても、ポジティヴに、そしてキチンと先が見えるように淡々と歌い上げていくギャップが面白い。途中でカヴァー曲を数曲織り交ぜていたのだけど、もう彼女自身の歌といってもいいくらい、その曲にも感情移入含めて歌い上げているのは見事だった。

「すごいなぁ。そろそろもう飽きてきたかと思うので、最後に“夜が明けたら”で終わりたいと思います」。ここまでMCはほとんどなく、フジロックについての感想を聞けなかったのは残念なのだが、「すごいなぁ」という一言で、彼女なりに、どうフジロックを体感していたか、なんとなくわかったような気がした。彼女自身もこの場の空気を体感していなければ、あのなんだか木漏れ日のような暖かい音に包み込まれる時間はなかっただろうと、今改めて思う。それにしても、“夜が明けたら”の静寂と激動のコントラストは本当に凄まじい。1曲でもいいから、まずは彼女の歌を聴いてもらいたいものだ。


写真:中島たくみ 文:松坂 愛
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