木々の間のやさしい宇宙
「フジロック、特に木道亭に出たいって長年考えてきたけど、夢がかなった!」とはステージ中の本人のMC。昼下がりの木漏れ日きらめく緑。木道亭と、モーフの旅である。
バンドの中心であるマンドリンとボーカルのモーフ。保育園の子どもたちや世界の人々に歌をと、各地をまわりながらその歌を聞かせる(実際にフジの翌日は山口県にいるとのこと)という、まさに名は体を表すグループ。歌う旅団の大舞台が始まった。
スティールギター、カホン、マンドリン、口琴・カリンバ。いわゆる「ヘブン系」アーティストの面々により構成された、クセのある楽器だけの四人である。この楽器編成でいったいどんなサウンドを…?と思うが、サウンドに触れればそれは驚きとともに氷解する。
マイナーな楽器の構成ながら、そこから生まれ出るのはむしろフォーク、いや童謡にも通ずる類の音が聞こえてくる。保育園の子ども達に歌を届けているという活動からなのか、音は優しく、歌詞は世代を関係なく響きそうな言葉で耳に触れてくる。「森からいろんなものを教わりました、次は森の、お母さんの曲を」そして紡がれる音、うたがたり。
「さあ、出発だ」といって、彼は歌を、旅をはじめる。それを浴びながら、ふと上を見上げる自分がいた。この伸びやかな音の広がりを浴びて、緑の中に溶けて、木々の幹を伝うように空にのぼっていく…なんていうのが見えるんじゃないかと思って、私はついつい上を見てしまった。木道亭にあったのはそんな空間の音楽だった。
写真:輪千 希美 文:ryoji