聞くものの心をがっちりと高ぶらせる、比類なき音色集団
ステージの前面にドラムが配置されている珍しい編成のバンド、ヤセイ・コレクティブ。夜明け間近の2日目夜、今年のフジロック全ステージのどこにも似たものが見つからない、独自の世界で会場の心を奪っていた。バンドは、ドラムス松下マサナオを中心に2009年に結成されている。1年前にリリースした1stアルバム『Kodama』は、国内外の音楽家から評価を得ているようだ。
秀逸なドラムテクニックとめくるめく音色やリズムの変化は、会場を魅了する。一見、ジャズのような、高度で複雑な音が重なるが、耳に入ってくる音は、決して小難しさでばかりではない。キャッチーな電子音が時折のぞくと、たちまちポップなサウンドに変貌し、開けた音として耳にすんなりと入ってくる。
そうかと思えば、ぱっと意表をついたような面白い裏切りが沸き起こる。圧倒の連続で、先の読めない展開に耳は奪われ、いつの間にか彼らの音の世界にどっぷりとはまっていることに気づく。オーディエンスは内なる感覚を刺激されてか、自然に踊りだし、歓喜の声を上げている。そして見渡すと、深夜3時にも関わらず、ルーキーのステージには、多くの人が集まり、彼らの音を目の前にして、高揚感をあらわにしている。
これだけしでかしておいて、当のメンバーは、あっさりとした表情。しかしながらMCでは、「2日目最後でテンションが上がってます。」とのこと。彼らの演奏は、クールなようでいて、情熱的に聞くものの心を揺さぶっていた。
写真:深野輝美 文:千葉原宏美