燃えて散るのが華…

サプライズや再結成の仕掛屋としての地位を確立しているコーチェラより、寝耳に水のAT THE DRIVE-IN（以下、ATDI）再結成の報が届けられたことは、皆さんご存知の通り。

11年前、ATDIは、突如として解散し、MARS VOLTAとSPARTAに枝分かれした。それぞれの活動が時間を積みあげ、深化してゆくほど、源流としての「ATDI」の存在がだんだんと大きくなっていった。どちらも順調にキャリアを伸ばしており、そもそものきっかけが「音楽性の違い」という決まり文句ひとつだったこともあって、再結成の話題すらなかった。

ATDIは、珍しく「再結成してほしくない」という感情が当てはまらなかったバンドだと思う。彼らがまだ全てをやり尽くしておらず、「その先」を予感させたままの状態で、ぶつ切りにされたような感じだったからだ。高みへと登る途中だったことを抜きにしても、フェス含め、スケジュールが固まっていた中での解散という事実そのものも、こちらを置き去りにしていた。だからこそ、ATDI復活の興奮には、ただの懐古ではない、「これから何かが生まれてくる」といった、当時の私たちが彼らに対して持っていた期待も付属している。今回の再結成は、ATDIと受け手の間で止まった時間が、そのまま掘り起こされたような感覚といってもよい。

…ここまでは、第一弾発表時に私が書いたアーティスト紹介の抜粋だ。期待に、様々な想いが上乗せされて、当日をむかえた。

竹ボウキを掲げて登場したセドリックはいくらかふくよかで、アフロでなくなったオマーは冷静な印象だ。ギターのジムは、沸々と煮えているといった感じで、音だし一発でどう展開してくるか、見ものだった。ひきつったギターのノイズが、ドラムのけたたましさを誘発して始まった”Arc Arsenal”だったが、オマーが飛び出してこない。オマーは、セドリックとのツートップアフロとして、それこそATDIの看板として、ギターもそこそこに大暴れしていたのではなかったか。様々なプロジェクトに参加し、深さの魅力に取りつかれてもいいと思う。だけれども、キャリアを華々しく開かせた宝物のようなバンドと、ひとり距離をおいているかのような立ち姿だった。昔は叫んでいただろう、マイクぐらいあってもいいじゃないか。

“Pattern Against User”では、いくらかかすれて味がでてきたジムのシャウトが心地よい。が、やはりオマーは冷静そのもの。音だけをとれば、当時のままだ。だけれども、彼らの場合は他の再結成バンドと違い、その暴れっぷりも重要なものなのだ。これが、THE STONE ROSESだったり、THE SPECIALSならば、音だけが当時に忠実であれば満足。なにも言うまい。しかし、ATDIは音圧のみならず、他を圧倒するテンションでもって、シーンを切り裂いてきた存在である。10年ちょっとの間に、こうも様変わりするのかと、少なからず寂しさを覚えてしまった。

“Sleepwalk Capsules”を境に、ステージ前には空白がうまれた。RADIOHEADが裏ということもあり、やきもきしていたのか、それとも別の理由があるからなのかは定かではない。昔からのファンは動かないだろう。だが、世代として間に合わなかった後追い組ならば、動画のなかに存在するATDIとのギャップは、受け入れがたいものだったかもしれない。

“Napoleon Solo”から始まった「聴かせる」流れのまま、”Quarantined”、”Enfilade”と続き、セドリックがメロディオン脇に置かれたポットとコーヒーカップとの不可思議なたわむれを繰り広げたりしながら、ライヴ後半へと突入。セドリックは体重増のおかげで動きが鈍く感じたが、当時の続きをステージ上で描こうとしていた気持ちがあった。

セットは、激しさと落ち着きがバランス良く配置され、要所で休憩ができるようなものだったかもしれない。本編の最後は、”One Armed Scissor”だった。激しく動けなくとも身体をよじらせて歌うセドリック、マイクに食らいつくかのようなジムの熱は、オマーのそれとは違った。少なからず不和が残っているのか、コーチェラ起因の荒稼ぎに過ぎなかったのか、アンコールは無し。来年以降も続くとは思えず、不完全燃焼の幕引きとなってしまったのが残念だった。

セットリスト

Arc Arsenal
Pattern Against User
Chanbara
Lopsided
Sleepwalk Capsules
Napoleon Solo
Quarantined
Enfilade
Pickpocket
Metronome Arthritis
Non Zero Possibility
Catacombs
One Armed Scissor