小池龍平+エマーソン北村+沼澤尚
至高の声と最上のPAマジック
エマーソン北村と沼澤尚という辣腕に惹かれて、足を運んだシプシーアヴァロンは昼間の炎天が嘘のようにちょうどいい気温と風が吹いている。初めて見る小池龍平は、オリジナルはもちろん、カバーでその本領を発揮するアーティストだった。
1曲演奏するごとに原曲やカバーするいきさつを話してくれる、そのテンポ感もゆったりしていて心地よい。声はジョアン・ジルベルトや大橋トリオを思い出させるような、ウォーミィでしかもそこかはとない色気を漂わせるあの感じだ。
ガットギターをクラシックなスタイルで構え、基本的にはボサノヴァ風のカッティングで弾く彼と、オルガンの丸い音を中心にしたエマーソン北村の鍵盤、そしてほぼブラシかリムショットという、超絶テクニシャン、沼澤尚としてはレアな演奏スタイルで、静かにしかし沸々とアンサンブルの妙味を紡ぎだしていく3人。
カバーの中でマイケル・ジャクソンのナンバーが2曲披露されたのだがまぁ”Human Nature”は、この音数の少なさでも驚かない。が、もう1曲はなんと”Billy Jean”!サビになってようやく分かったぐらいなのだが、このステージのPAを務めた内田直之の手腕が最も発揮された、とってもダビーな”Billy Jean”だったのだ。
小池曰く「ある意味、この二人(エマーソンと沼澤)を日本で一番、贅沢な使い方…使い方ってアレだけど、音数少なくやらせてもらってます」という言葉に思わず笑ってしまった。そしてこの3人プラス内田ならではのステージを見せると、マイペースながら強い意気込みも。でも、なんと言っても彼自身が最も楽しそうなのだ。
他にもボブ・マーリィの”ワン・カップ・オヴ・コーヒー”や、それこそジョアン・ジルベルトの”ウンデュ”、白眉だったのがニール・ヤングの”Out on the weekend”。しかもあったか切ないだけじゃない。エマーソン北村が入れるごくごくさり気ない不穏な音や、内田が施すエフェクトが、ただ癒やしの音楽を越えてイマジネーションをくすぐり、心の底から味わい深い時間を過ごさせてもらった。