WILCO
音楽の滋養も逸脱もたっぷりと
今回のフジロック出演直前に10thアルバム『Schmilco』の9月リリースが発表され、その中からすでに”Locator”と”If Ever Was a Child”はもう聴けるという、期待値が上昇する2016年7月23日現在である。なんて旺盛な創作意欲なんだろうかと思う。
前回、2011年のホワイトステージでのステージでそのあまりに飾り気のない、演奏とパーソナリティ、そして曲の魅力で彷徨う心の灯台を見つけたような暖かい気持ちになったことを鮮明に覚えている。深夜の一歩手前、センチメンタルな気分も手伝ったのかもしれない。そして今回は少し陽は傾き始めたものの、日中のグリーンステージという、わりとフラットなシチュエーションだ。
飾り気のないステージに楽器とアンプが横並びに配置されていることがむしろ心踊る。アルバム『Star Wars』のオープニング”EKG”を入場SEに、まずジェフ・トゥイーディ以外の5人が登場、続いてジェフの登場してハットをとり、軽く会釈する。年季の入ったSGを手にした彼を始め、メンバーのギターに目がいく。メンバーそれぞれの個性を表すギターが勢ぞろいしているのも楽しいのだ。
演奏は”MORE…”からスタート。かなりオルタナティヴな方向に回帰したアルバムと称される『Star Wars』だが、演奏は高度に練られたアンサンブルを通過した上での好き放題といった感で、やはりWILCOの演奏はそれだけで滋味にあふれている。続いて”RANDOM NAME GENERATOR”と、アルバムの曲順通りに脱力とギアアップを繰り返す6人の、今日この瞬間にしか起きないケミストリーにワクワクしてしまう。この6人以外でこれらの曲を楽譜におこして演奏してもきっと何が何だかわからないものにしかならないだろう。そしてジェフもジョン・スティラット(Bs)も声が素直で暖かい。これもWILCOをWILCOたらしめている大きな要素だろう。
中盤には早くも新曲”LOCATOR”も披露。ワン・アイディアで潔く終わる曲だ。かと思えばピアノが印象的なオーセンティックな”HUMMINGBIRD”も披露してくれる。彼らの演奏、特にジェフのギタープレイはロックミュージシャンというより、必要な音を最も良い状態で鳴らす感じだ。例えばアームを正確に一回転、とか。この大仰なところの一切ないプレイと、他のメンバーとの個性の抜き差しそのものがWILCOなんだろう。
終盤には”VIA CHICAGO”のイントロに歓声が上がる。名曲感しかない展開の途中にいきなりぶっ壊れたようにグレン・コッチェ(Dr)が乱打し始めると盛り上がる前方のファンたち。初めて見るオーディエンスには不意打ち以外の何物でもない。アメリカン・ルーツ・ミュージックの粋を気負わず吸収して、オルタナティヴな手法で表現してきた彼らの音楽が広く浸透しているアメリカの音楽的な地層の厚さを羨ましく思わずにいられない。
淡々と演奏の積み重ねで熱量を上げてきた6人は、最後にあまりにも美しいギター3本とオルガンの音色がホーリーな印象すら醸し出す”IMPOSSIBLE GERMANY”が流れ出す。ああ、この質感に5年前もまるで恋に落ちるようにワクワクした。そして同時に心の底から安堵したのだ。彼らと自分のバックボーンは全然違うけれど、彼らは彼らのソウルフードのような音楽を普通に出してくれる。ちょうど寒さを感じ始めたその時、彼らの音楽は暖かいスープのように全身に染み渡った。バンドという演奏形態のある種の究極を見た思いだ。
セットリスト
MORE…
RANDOM NAME GENERATOR
I AM TRYING TO BREAK YOUR HEART
ART OF ALMOST
LOCATOR
PICKLED GINGER
HUMMINGBIRD
HANDSHAKE DRUGS
COLD SLOPE
KING OF YOU
VIA CHICAGO
SPIDERS
HEAVY METAL DRUMMER
I’M THE MAN WHO LOVES YOU
IMPOSSIBLE GERMANY
THE LATE GREATS
I’M A WHEEL