サニーデイ・サービス
何度目かのピークを迎える曽我部恵一のいま
こんな昔のことを言ってもうなづいてくれるオーディエンスがどれぐらいいるか分からないが、今日の曽我部恵一、そしてサニーデイ・サービスは2001年、伝説のニール・ヤングぐらい、ジャンルを超えた魂のライブだった。
最近のサニーデイ・サービスは、昨年のアルバム『DANCE TO YOU』での時代性を反映した、でもフォーキーな味わいもある作品性でクローズアップされ、今年はサブスクリプションのみで急遽『Popcorn Ballads』を「シェアする」という形でローンチした。シーンの一番目立つところではないけれど、サニーデイ、曽我部恵一は今、何度目かの音楽的なピークを迎えているのは相違ないだろう。
ライブ自体は最新作のモードではなく、前作のムードを踏襲。曽我部恵一(Vo、Gt)、田中貴(Ba)、岡山健二(classicus。元andymori)、高野勲(Key)、新井仁(Gt)という、多世代バンドでツアーも重ねてきた(とはいえ、世代が違うのは岡山ぐらいか)。その芳醇なアンサンブルを基調にしつつ、今、サニーデイは再び恋人たちの狂おしいまでの人生の夏を鳴らしまくっているのだ。
曽我部は赤いTシャツを白いパンツにタックインして登場。それだけでアガる。分かってもらえるだろうか?ホワイト・ファルコンのファットで暖かい音を声のように鳴らしながら、スウィートにタフに歌う彼を見ていたら、時にサンダーキャット、時にカーティス・メイフィールドのように見えてくる。ほんとの意味でのソウル・シンガーだ。近作から“I’m a boy”を披露した時の、この場にいる様々な男性が少年に戻っていくような歌の浸透度、物語のリアリティは格別だ。
中盤の“街角のファンク”では、ラッパーのC.O.S.A.とKID FRESINOを迎え、唯一『Popcorn Ballads』収録曲を立体化してくれた。生バンドのネオソウル〜ファンクをトラックとして聴いているような新鮮な感覚があり、このナンバーを今年のフジロックで演奏してくれたことの曽我部恵一なりの、今の気分や世界中で起こっているラップ・ミュージックとのごくごく自然な親近感、そう言ったものの痕跡を残してくれたこと、それを目撃できたファンの喜びは、C.O.S.A.とKID FRESINOを呼び込んだ時の歓声の大きさに現れていた。
“セツナ”では田中も曽我部もウィンドミル奏法で腕をぶん回し、ここまでエモーショナルなサニーデイ・サービス見たことない!と驚きと歓びに落涙しそうになりながら、「かなわねえなぁ」とひとりごちてしまった。ラスト、“サマー・ソルジャー”のイントロを曽我部が爪弾くと、感極まった拍手が起こる。恋人たち、これから恋人になる人たち、もうすっかり家族になった人たち、そして子供たち。ここにいる誰もをまたしても、自我を失ってしまうような「夏の恋」に叩き落としてくれる、生き物としてのエネルギーを思い出させるサニーデイ・サービス、曽我部恵一というアーティストの凄まじさにどっぷりハマったステージだった。実はまだもっと見たい(笑)。