LIVE REPORT FIELD OF HEAVEN 7/28 FRI

RHYE

美しさで満ちた天国のような音世界

カナダ出身のボーカリスト、マイク・ミロシュとデンマーク出身のミュージシャン、ロビン・ハンニバルによるデュオであるライがフジロックに登場するのは今年で2回目。2013年の初出演の時はアルバム『Woman』をリリースした直後でまだ謎の多いユニットだったが、素晴らしいパフォーマンスでフジの観客を魅了し、ライをベストアクトに挙げた人も多かった。現在ライはニューアルバムをレコーディング中で、その中から新曲を2曲公開したばかり。ロビンはツアーには参加していないので、マイクだけがバンドを引き連れて来日した。真っ暗なフィールド・オブ・ヘブンでどんなステージを繰り広げるのか、期待が高まる。

定刻どおりにバンドメンバーが登場。ドラム、キーボード/オルガン、ギター、2人のストリングス隊という編成で、みな闇に溶け込むかのように黒い服を身につけている。 演奏が始まると静かにマイクが現れてステージ中央に立った。1曲目は”Verse”。マイクの口から歌声が漏れ出た瞬間、歓喜の声と拍手が上がった。甘美な歌声がヘブンに響き渡り、観客を異世界へと誘う。マイクの歌声はよくシャーデー・アデュを引き合いに出されているけれど、生で聴いてもとろけるような美しい声だ。もはや性別を超越したかのような、上品で、透きとおっていて、それでいて官能的な歌声で心を静かにつかまれる。続けて演奏した新曲の”Please”では、あたたかみのあるソウルも加味されてうっとり魅せられた。あぁ本当になんて美しいんだろう。ヘブンの中央に設置されたミラーボールはライトを反射して、周りの木々をちらちらと光で照らし出ている。そんな幻想的な空間を満たす美しい音楽の中にいると、この世ではないどこか別の世界にいるかのようだった。夢見心地な気持ちで”3 Days””The Fall”と吸い込まれるように聴き入っていると、「楽しんでいるかい?」とマイクが観客に声をかけた。マイクの声で「君たちは美しい観客だね」と言われるともう、ここには美しいものしか存在しないんじゃないかという気持ちになる。そう、天国のように。

バックバンドの演奏も親密で素晴らしかった。次のアルバムではよりサイケデリックな雰囲気を出してみたいとマイクが別のインタビューで語っていたが、ライヴでもバンドとジャムるように小さいドラムセットを叩いたり、キーボードを演奏したりと、演奏パフォーマンスでも聴かせてくれる。”Last Dance”後半でストリングス隊の一人が魅せたトロンボーンのソロもかっこよかった。スローで心に染み入るような”Waste”、軽やかなもう一つの新曲”Summer Days”に続けて演奏したのは代表曲”Open”。ライトを落として暗くして、とマイクが指示したために最低限のライトだけを残してステージが暗くなった。結成当時から、音楽だけを聴いてほしいと匿名性を大切にしているライらしい演出だ。そしてこの暗さの中で聴くと、ライの音楽の美しさがより一層際立った。いつまでも浸っていたくなるような甘美な夢のようだった。ラストを”It’s Over”でしめくくり、予定より少し早く終わってしまったのが残念だったけれど、ヘブンの観客はライが残した余韻からしばらく離れられなかったはず。暗闇のヘブンと光とライの音楽が起こした奇跡を目撃できたことを幸せに思った。

 Photo by 古川喜隆  Text by Paula Posted on 2017.7.28 20:20