LIVE REPORT 苗場食堂 7/29 SAT

マキタスポーツ

感動するつもりはなかったんですけど…

本人もしきりに「ねぇ、コーネリアス入場規制になっちゃうかもしれないのに、なんでここに来たの?」と言っていたけど、まず集客の多さに驚いた。マキタスポーツは、ひらたく言えば「芸人」。最近主としている肩書は「俳優、ミュージシャン」、さらには文筆家でもある。個人的なイメージでもう少し広げると、「やたらとクオリティの高い楽曲のビジュアル系バンドのボーカル」であり、「某カップうどんの待ち時間を10分にして食べるとうまいというブームを作った人」だったり。私自身どんなライブが行われるのかいまいちイメージが付かないまま苗場食堂にいた。たくさん集まった人たちもその得体の知れなさを紐解きに来たのかもしれない。

ライブは、アコースティック・ギターでの弾き語りだった。声量があり、温かみのある声で歌われる歌は、どれもすんなりと耳に馴染む楽曲で、すぐさま合唱が巻き起こる。さすがはJ-POPのヒット曲の法則を研究し尽くした策士の作る曲である。“上京物語”は、敬愛する長渕剛調の曲で、上京したものの乗り換えがわからず北上して郡山で観光したり、ネズミ講で大成功したりするエピソードが剛調で繰り広げられる。隙あらば放たれる「セイッ」についつい飽きずに笑ってしまう。お次の曲は加山雄三“君といつまでも”の替え歌。本家より下ネタチックな若大将も大いにウケていた。歌とものまねがうまいだけでなく、オリジナルへの尊敬や愛情を感じるから、決して悪ふざけに感じさせないところもすごい。

そして、はけることもなく、「アンコールありがとう!」と言ってラストの曲に。ビートたけしの“浅草キッド”のカバーだ。売れることを夢見る若い芸人のしがない感情を歌った曲である。マキタはこの日、ブログでフジロックへの思いを語っていた。15年前、鳴かず飛ばずの時代にフジロック出演を夢見て遊びに来たこと。そして15年の遠回りを経てフジロックに初出演することになり、15年前奥様のお腹の中にいた娘さんが苗場に遊びに来てくれたことを、感慨深そうに伝えていた。そのエピソードがあった上でのこの“浅草キッド”はもともと曲が持つ以上の叙情を感じさせ、迫りくるものがあり、想定外にホロッとさせられてしまった。

笑ったり、ほろっときたり、「いいもん見たなあ。」とつい、つぶやいてしまう、そんな30分のライブだった。終演後にじわじわ染みてくる思い出し笑いと感動がとても心地いい。マキタスポーツは、歌がうまくて、表現上手でおもしろいおじさん。あと、とても愛情深い人。とりあえずこれだけは今日確実にわかったこととして報告させていただきます。 

 Photo by Yusuke Baba  Text by 東いずみ Posted on 2017.7.29 18:30