THE NOVEMBERS
11時からは、雨のような美しき轟音を
SEに使用されているジェフ・バックリィの“ハレルヤ”。この曲が鳴り始めた瞬間に、雨がだんだんと降り始める。「流石だなあ」なんて思ってしまう。THE NOVEMBERSは、超絶雨男たちのバンド。ライブを行う日には、必ずと言っていいほど雨が降っている。
11時ちょうどにスタート。ホワイトステージで観るTHE NOVEMBERSのライブが11時ぴったりに始まるというだけで、ライブ前なのに彼らの美学の断片を感じてしまう。
いつものように“美しい火”から演奏が始まる。体の奥に突き刺さるような吉木諒祐(Dr)のドラミングにドリーミーなギターサウンドが響く。2014年にレッド・マーキーに出演していた彼ら。もうワンランク大きなステージで今回ライブを行うということもあり、気合いも十分。会場や観客の空気感を試しているかのように、丁寧にゆったりとライブが始まっていく。
小林祐介(Vo&Gt)の裏声が美しく伸びる。その度、ゾクッとする。いい演奏や好きな音楽を聴くと、鳥肌が立つ瞬間というのは、もちろんある。しかし、THE NOVEMBERSはそれだけではなくて、楽曲の美しさの中に、恐ろしさ・狂気といった何か恐ろしい感情がほんの少しだけ含まれている気がして、ゾワっとしてしまう。
“風”を経てからの“1000年”や“鉄の夢”。攻めの姿勢を一切崩さない破壊的なサウンドが、どんどん加速していく。小林のシャウト、殺傷能力抜群の重厚感のある轟音。長い髪を振り乱し、思いっきり頭を振るケンゴマツモト(Gt)と高松浩史(B)。演奏の力で、目の前にいる観客の音楽観をもう全部ぶっ壊しに来ていると思う。ライブが進むにつれ、徐々に攻撃力が増していく。無理やりにでも記憶の中に自分達の演奏をねじ込みにきている。ただただ、かっこいい。シンプルに自分達の美学を信じ、突き進んでいる。ぶっ飛びすぎて、なんだか笑いそうになってしまう。
それだけじゃない。聴かせるところはきちんと聴かせてくる。“あなたを愛したい”では、ゆっくりとしたテンポに、小林の綺麗な歌声が乗せられる。高松のコーラスも、一層穏やかでダウナーな雰囲気に加勢する。ああ、なんて素敵なんだろう。好きだ。何かを好きになる温かい気持ちみたいなものが、胸の奥にじんわりと広がる。霧のように降る雨すらも、計算された演出なんじゃないかと思えてくる。これくらいの天気が、彼らにはよく似合う。
“Blood Music.1985”から“こわれる”への流れも、実に見事だった。“こわれる”のイントロが鳴った瞬間、大きな拍手と歓声があがる。タイトル通り、壊れてしまうんじゃないかと思うくらい激しすぎるドラム。そして、演奏で表現できうる限りの衝動をすべて音、そして歌声に変換している。“こわれる”は初期に作られた曲なのだけれど、2017年のホワイトステージで聴ける日がくるだなんて発売当時は想像もしなかった。音源と異なるアレンジ、表現の広がり、シャウトの伸び方など、比較しつつ聴くと、とても感慨深いものがあった。
「自分たちの曲の中で、一番きれいな曲をやって帰ります。また、いい未来で会いましょう。」というMCが終わると、“Hallelijah”の美しいイントロが流れた。「そうさ全部燃やして」という歌詞が耳に残る一曲。荒々しくかき鳴らされるギターには、各所から歓声も上がる。
演奏が終了すると、深く丁寧なお辞儀をし、ステージを去っていく小林。いい意味でトラウマになってしまうよな、圧巻のステージだった。本当に「美しい」という言葉が、ぴったりと当てはまる。たった1時間のライブでは全然物足りなくて、もっと轟音を浴び続けたい。ずっと、聴いていたい。彼らの美学を信じ、どこまでも見届けたい。そんな一時だった。
ライブが全て終わると、すっかり雨も止んでいた。ああ、やっぱり雨を降らすバンドなんだなあ……。