LIVE REPORT RED MARQUEE 7/30 SUN

水曜日のカンパネラ

コムアイのパーソナルとフェスの常識を破る演出の両面を見た

ヘッドライナーであるビョークのステージが終わるか終わらないかという時間から、フジロック初出演となる水曜日のカンパネラを見ようとするオーディエンスがRED MARQUEEに続々と詰めかける。武道館公演も経験し、直近でも新木場コーストでライブハウス公演を行ったばかりの彼らがフジロックでいかなる演出を見せるのか?ワンマンと違って様々な制約があるに違いない環境面と、それじゃ満足しないだろうコムアイの生まれついてのアーティスト気質がどんな着地点を見せるのか。

意表を突く演出は、具体的な内容はわからないまでも、何かとんでもないことをしてくれると期待していて、しかも大きく予想を裏切る内容だったのだが、それ以上にシンプルにステージ上で歌い、直感のままダンスした冒頭の3曲の後、コムアイが発したMCにパーソナルな思いがにじんでいたことに驚いた。

「こんばんは、フジロックーーーーーーーーーーーーー!」と声がなくなるほど叫んだ彼女は「ビョークが終わっても帰らずにきてくれてありがとう」という感謝の言葉に続けてこんなことを話してくれた。「4年前初めてフジロックにきて、もっと遡ると6年前に母が死んで、今日は母の命日で。(フジロックは)絶対出たい場所になって、すごく助けられてきました。いつ誰が死んでもおかしくないし、そんな人たちが集まってるのがフジロックだと思う。私もいつ死ぬかわからないようなことばかりやってるんだけど。昨日もパレスを追い出されるまで遊んでたし」と、「命がけで私が一番楽しんでる」自信をオーディエンスとしても演者としても確信しているような発言だ。そこからの“メロス”の流れは、死ぬほど生きるって最高に生きてるってことだよなと、いつになくエモーショナルで心にグサグサ刺さる言葉とスピード感を伴ってフロアを満たしていたのだ。

大げさに言えば前に進むためのモチベーションだったんだな、フジロック……ちょっと感傷に浸り、自分も含めそんな人がたくさん集まっているよと思いながら、ステージに目をやると巨大なエアバッグ的なものがステージ前方を覆い、“ウランちゃん”のイントロが鳴り、その中で歌い踊るコムアイのシルエットが見える。そしてそのエアバッグの布ごとフロアに降り、PA卓とステージの中間地点あたりのオーディエンスの中で歌うコムアイ。一人が立てる台があるのか、スタッフが支えているのか見えなかったが、そんな状態でも激しいアクションで圧倒的な人間力を見せつける。天井のキネティックライトが赤く染まり、まるで血管のように見えるのも、ゾクゾクするほどのシンクロを見せていた。

ステージに戻り“シャクシャイン”では、歌詞にフジロックを盛り込んだり、“桃太郎”ではなんと苗場食堂のご主人が一瞬ステージに登場したりと、牧歌的というかご当地ならではの試みも。さらにはおなじみのバルーンに入って、オーディエンスの頭上を転がるパフォーマンスも見せ、その切り替えと身体能力の高さに驚かされるばかり。

その後、オーディエンスの一部がどんどんRED MARQUEEの出口付近に急ぐ。何かと思えば先ほどの巨大エアバッグが、会場入り口付近で膨らんで浮遊している。おお、これはこの中に移動するということか?と、追いかけていくと、その中で歌い、そのままエアバッグはドラゴンドラ乗り場の入り口付近まで移動して、それでエンディングと相成った。

ユニークな仕掛けとかイリュージョン紙一重の演出に思えるかもしれない。でも、今日、はっきりした。人間いつ死ぬかわからないのだ。そしてどんなに「無謀」と呼ばれるエンタテイメントが不可能かどうかは、それを実現したいモチベーションを持った主役がいれば可能だということ。

フェスという場所でギリギリ、水曜日のカンパネラにしかできない見せ方を実現したアーティスト自身にも、フジロックという場にも感謝したい。

 Photo by 木場ヨシヒト  Text by 石角友香 Posted on 2017.7.31 10:58