LIVE REPORT FIELD OF HEAVEN 7/30 SUN

THUNDERCAT

サンダーキャット・バンド最狂説

今年のフジロック、最終日のフィールド・オブ・ヘヴンのトリを飾ったのは、フライング・ロータスをはじめ、ケンドリック・ラマーやエリカ・バドゥらをも魅了する凄腕ベーシスト、サンダーキャットことステファン・ブルーナーだ。今年2月にリリースされた新作『Drunk』はこれまでの中で一番歌モノをフィーチャーした作品になっていて、世界のあらゆる音楽メディアから好評を博している。そんな彼の6弦ベースを使った超絶ベース・プレイと美麗なヴォーカルワークを堪能しようと、ヘヴンには多くの人が集まっていた。

彼がライヴを行う時は基本的には3人編成。それは、彼曰く「トリオで演奏することによって、アルバムでは表現できなった以上のことが伝えられると思う」。この言葉を聞く限り、その「アルバムでは表現できなかった以上のこと」が一体なんなのかというのが一番気になるところだ。

サンダーキャットの横にはエフェクターの乗せられた台があり、そのエフェクターを使うことでベースの音色を自由自在に操っている。そのエフェクトがかった特徴的なベースリフから始まる1曲目は“Rabbot Ho”だ。フィンガーピッキングの手数はオリジナルより多く序盤からBPM高めに感じられる。それを助長するのは、ステファンの両サイドを固める、ドラマーのジャスティン・ブラウンとキーボード奏者のデニス・ハムだ。ジャスティンのカタルシスが感じられるほどの手数の多い激しいジャズ・ドラミングと、デニスのあらゆるジャンルに順応できるプログレッシヴかつフレキシブルな演奏が、ステファンのベースを引き立てている。しかし、曲の後半になると、徐々に曲の原型は無くなっていき、ジャム・セッションの様相を呈していく。3人それぞれがグルーヴの主導権を取り合うようなせめぎ合いのある演奏、そしてそこに生まれる凄まじいグルーヴにオーディエンスは只々唸るしかなかった。

圧巻だったのは、ラスト2曲の展開だ。“Captain Stupido”はBPM200を超えんばかりの超高速演奏。歌詞もしっかりそのピッチで歌っているもんだから、ひたすらもう感嘆しかない。そしてオーラスは“Captain Stupido”のピッチを保つためにBPMも高めで演奏された“Oh Shell It’s X”。そのスピード感にしっかりシンクロしたソウルフルなヴォーカルと曲のグルーヴにオーディエンスのテンションも最高潮に達し、サンダーキャットのセットは終わりを迎えた。

今回のライヴを観て感じたのは、彼が言う「アルバムでは表現できなかった以上のこと」というのは、実はそんなに複雑なものなのではなくて、シンプルに「ベース・プレイヤーとして最大限に表現していく」ための手段として“3人によるジャム・セッション”が選ばれた、ただそれだけのことだったのかなと。

演奏が終了した直後の、ステファンの満足げな笑顔と、そこに同調したオーディエンスの笑顔が、このライヴの素晴らしさを物語っていた。

 Photo by 北村勇祐  Text by 若林 修平 Posted on 2017.7.30 21:00