トリプルファイヤー
二度と来ないはずのフェスでシャウトした高田馬場のジョイ・ディビジョン
そろそろビョークの登場時間を気にしだすという時間帯に、トリプルファイヤーは苗場食堂の一番手としてヒョコヒョコと登場した。喝采を浴びながら吉田靖直(Vo)はエフンと咳払いひとつして「FUJI ROCK FESTIVALに来てくれてありがとうございます」と控えめに感謝の挨拶を口にする。なのに、バンドアンサンブルが始まってからの歌い出しは「ロックはもう終わってる とっくにダサくなってる」という「エピタフ」。シニカルで刺激的な物言いの数々で歓声とクスクス笑いを誘い、曲の締めくくりに彼は「フジロック!」と一言おまけした。
バンドのパフォーマンスは、一見淡々と進行した。鳥居真道(G)が鳴らす最小限の音数で楽曲をリードし、吉田が先進性と面白さの間を綱渡りするような歌詞を吐き出していく。だが、そこに山本慶幸(B)と大垣翔(Dr)が放つタイトなリズムが加われば、不思議と無機質と有機の絶妙なバランスのとれたトリプルファイヤーの音楽が成立する。吉田のぎこちないMCを適度にはさみつつ、トリプルファイヤーが次々と繰り出すシンプルなバンドサウンドは観客を大いに楽しませた。
ステージ遠く後方のレッドマーキーから届いてしまうThe Strypesの直情的なロックサウンドも気にならないくらい、「トラックに弾かれた」「次やったら殴る」「Jimi Hendrix Experience」などのトリッキーな歌詞&不可思議な音でオーディエンスが言いくるめられて迎えた後半。吉田は特に調子も変えず「10年前に通し券を買ったのに前夜祭でサイフとリストバンドを無くし、『もうこんなクソなフェス二度と来るか』と思ったけど……フジロック最高のフェスです。ありがとう」と感謝を告げる。そして「今東京から離れてこう言うとこにいることがもっとテンション上がるでしょ苗場の人。カモン。親の介護とかいろいろあると思うけど、カモン」と言って煽りMCをカット&ペーストしたような内容の「カモン」でバンドの演奏に乗せて「苗場ー声出せー?」と聴衆を扇情した。
終盤には虚無感のある労働内容と充実感に満ちた労働者の声が対比的な「スキルアップ」、自分たちに付いているキャッチコピーをメタ的に歌詞化した「高田馬場のJoy Division」をテンポよく演奏されてライブが終わる。吉田の「お父さんも若い頃はフジロックに出たことがあるんだよ お父さんは若い頃は高田馬場のJoy Divisionと呼ばれていたんだよー!」というシャウトに、オーディエンスは若干の笑いとたくさんの歓声を返した。